2015年6月23日火曜日

特別養子縁組

司法書士の岡川です。

養子というのは、血縁関係のない者同士に法的な親子関係を創設する制度です(参照→「養子縁組」)。
一般的には、当事者の合意(一種の契約)に基づき、役所に養子縁組届を提出することで成立します。
これを普通養子といいます。

これとは異なり、特殊な条件のもとに成立する「特別養子縁組」という制度があります。

今日は特別養子縁組のお話。


ちょっと聞き慣れないかもしれませんが、「藁の上からの養子」という言葉があります。
藁の上・・・すなわち生まれたときからの養子です。

すなわち、血の繋がっていない他人の子を貰い受け、自分(達)の実の子とすることをいいます。
ドラマなんかではありがちな設定ですが、実際にも行われており、それがしばしば問題となっています。

「養子」といっても、法律に則って養子縁組をするわけではなく(それは普通の養子)、勝手に実の子として出生届を出すものです。
いうまでもなく、実子ではないのに実子として虚偽の出生届を出しても無効(実親子関係は成立しない)ですし、養子縁組の届出をしていないから養親子関係も成立しません。
さらに、そういった行為自体も犯罪(公正証書原本不実記載罪)となります。

しかし、色々な事情があって、養子ではなくて実子として貰い受けて育てたいという人たちは存在します。
実は、養子縁組でも実親子関係とほぼ同等の身分関係になる(血のつながりの有無に起因する近親婚の禁止等の規定に違いがあるくらい)のですが、そうはいっても「養子ではなく実子として扱いたい」という要請があったわけです。

そういう要請はありつつも、かつては、血のつながりが無い者同士が適法に実親子となる余地がありませんでした。
そのため、違法に実親子関係を作出する(つまり、バレないように虚偽の出生届を出す)という例が後を絶ちませんでした。

それどころか、堂々とこれを斡旋する医師も出てきました。
これが菊田医師事件です。

もしかしたら、ある程度年輩の方は記憶にあるかもしれません。


そんな背景事情があって誕生したのが、特別養子縁組という制度です。
誕生したのは、昭和62年改正ですから、もう30年近く前の話になりますが。

これは、普通養子以上に、養親子関係を実親子関係に近づける制度です。

具体的には、特別養子縁組が成立すると、実親子関係が断絶します。
普通養子では、実親子関係はそのままで新たに養親子関係が作られますので、子には、実親と養親の両方がいることになります。

これに対して特別養子縁組では、実親子関係は完全に終了します(ただ、近親婚については一定の制限が残ります)。
つまり、実親との関係では、血のつながりはあっても、法律上は、文字通り「親でも子でもない」ことになります。
実親が死んでも相続権は生じませんし、逆に子が死んだときも実親に相続権は発生しません。

そして、特別養子は養親の戸籍に入籍することになりますが、ここには「養子」とも「養親」とも記載されません。
そのため、戸籍上の親子関係は、血の繋がった実親子関係とほぼ同じ形になります。
ただ一点、「民法817条の2による裁判確定」という記載がなされるので、そこから特別養子縁組であることが読み取れますが、それ以外に養子であることを示すような記載は一切出てきません。


このように、他人の子を自分の実子にしたい人にとってはありがたい制度ですが、やはり、身分関係をガラッと入れ替える強力な制度であるため、普通養子縁組のように、気軽に「届出をすれば成立」というわけにはいきません。

特別養子縁組をするには、いくつかの要件があります。

1.養親は夫婦が共同でならなければならない(独身者は不可)。
2.養親は少なくとも一方が25歳以上(もう一方は20歳以上)でなければならない。
3.養子は6歳未満でなければならない。
4.実親の同意が必要

こういった要件を満たし、家庭裁判所に縁組請求を行い、裁判所が「子の利益のため特に必要があると認め」たときに審判によって成立します(これが、戸籍に出てくる「民法817条の2による裁判」です)。
しかも、審判の前提に6か月の試験養育期間が設けられ、その間の監護状況も考慮されます。

もとの実親子関係が断絶し、新たな実親子関係(と同等の関係)を創出する制度なので、とんでもない親と縁組しまっては大変です。
そのため、厳しいチェックが入るわけですね。


特別養子縁組は、血のつながりのないところに実親子関係を作り出す方法として、藁の上の養子の問題を立法的に解決するためにできた制度です。

それでもまだ、虚偽の出生届を出す人(繰り返しですが、無効ですし犯罪です)は後を絶ちません。

これには、要件や手続きが厳格であることと、戸籍上どうしても痕跡が残ってしまうことがネックとなっているのでしょう。
しかし、要件や手続きが厳格なのも、それ相応の理由があるわけですし、痕跡が残るのも、子が自らの出自を知る権利を奪わないためのものです。
そこは理解した上で、上手く利用することが求められます。


せっかくの制度ですから、必要とする方に周知され、もっと活用されるとよいですね。

では、今日はこの辺で。

2 件のコメント:

  1. 初めましてて。
    私は娘がいてシングルマザーです。
    認知の欄には相手が記載されていません。
    最近入籍をして、私の名字は変わりましたが娘の名字はまだ変わっていません。
    養子縁組の手続きの書類を提出とあります。
    戸籍には養子となる事になります。
    母である私は大変胸が苦しく、実子にしたくてたまりません。
    娘が一歳から今の旦那さんといて、娘も父親だと思っています。いつか娘が戸籍を見たときまでの心の準備を親はしていくのですが考えると悲しいです。

    私が選んだ結果ですが、中絶を選ばず命を授かって産まれた日の事どれだけ嬉しかったか昨日のように思い出します。

    親子関係も良好で現在お腹に赤ちゃんを授かりました。このお腹の赤ちゃんは実子になり、長女は娘は養子になるのです。

    ネットなどで調べると実子に偽り、証明書を出して実子にする方などいるそうなのですが、やはり隠蔽はしたくありません。
    特別養子縁組をしてみようかと思ってこちらのページを拝見しました。
    大変分かりやすく理解出来ました。
    相続などの事から、子供たちには一人一人残すようにしたいのと、お墓の件も日本はあります。
    偽りをする人ばかりではないので
    どうか法律がもう少しだけでも、養子、実子の記載変更が子と親を繋ぐ改善策をしてくれる日がいつな訪れますように。

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  2. 特別養子縁組は、実子と同じように戸籍に記載されますが、本文記載のように、特別養子縁組であることは、見る人が見ればわかります。
    ただ、そこは将来、時機を見てきちんと説明してあげるとよいと思います。

    海外では、「自身の出生を知る権利」というものが問題となっています(特に生殖補助医療の分野で)。
    親の都合で完全に子の出生の秘密を隠蔽することは、子の権利侵害であるという考え方が広まっています。

    「血のつながりの有無にかかわらず法的な親子関係を創設する」ことと、「事実自体を本人に知らせないようにする」ことは別問題であると考えられているわけです。

    日本の特別養子縁組制度は、その意味で(結果的にかもしれませんが)バランスの取れた制度といえます。改良の余地はあるとは思っていますが・・・。

    なかなか難しい問題ではありますが、乗り越えられることをお祈りします。

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