司法書士の岡川です。
被告の住所がわからず、訴状など裁判所の手続きに必要な送達ができない場合は、裁判所書記官に申し立てることで「公示送達」をすることができます。
これは、基本的には訴訟において使う制度ですので、民事訴訟法に規定がありますが、訴訟以外の裁判手続(強制執行とか)においても準用されます。
ところで、裁判手続ではなく、個人的な意思表示を相手に届けたいのに相手の住所がわからなくて困るということもあります。
例えば、契約を解除する場合は、契約の相手方に解除の意思表示をしなければなりません。
ところが民法には、「隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。」とあります。
目の前に相手がいれば、その場で「契約を解除する」と告げればそれで意思表示の効力が生じますが、そうでなければ相手に到達しなければ意思表示の効力が生じない。
そうすると、相手がどこにいるか分からなければ意思表示を到達させることができず、いつまで経っても意思表示の効力が生じないことになります。
契約の解除も意思表示ですので、解除の意思表示を到達させることができないと、いつまでたっても契約は解除できません。
そこで、あまり知られていませんが、民法には、実は「公示による意思表示」という制度が規定されています。
「意思表示の公示送達」ともいいます。
民法98条1項には、「意思表示は、表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、公示の方法によってすることができる。」とあります。
具体的には、98条2項以下に規定されているのですが、基本的には民事訴訟法の公示送達の規定に従うことになります。
実体法である民法に手続法の規定がある例のひとつですね。
公示により意思表示をしたい場合、民事訴訟法上の公示送達と同様に裁判所に申し立てます。
管轄は、相手方の最後の住所地を管轄する簡易裁判所です。
この申立てが認められた場合、裁判所の掲示板に掲示し、かつ官報に掲載されることになります。
そして、民事訴訟法上の公示送達と同様、2週間後に意思表示が相手に到達したみなされることになります。
なお、条文上は「公示による意思表示」とありますが、実は、厳密にいうと「意思表示」ではない行為でも利用できるとされています。
例えば、債務者に対する「意思の通知」である「催告」や、債務者に対する「観念の通知」である「債権譲渡通知」などは、意思表示ではなく講学上「準法律行為」といわれていますが、準法律行為でも公示による意思表示が可能なのです。
ちなみに、訴状を公示送達した場合、その訴状の中で意思表示(例えば契約の解除)をしていたら、その意思表示も相手方に到達したとみなされます。
なので、実務上は、裁判をする場合は、あえて別途公示による解除の意思表示をすることなく、訴状中で解除の意思表示をした上で訴状を公示送達するという方法がよく行われますね。
ついでなので、専門的な話としては、「公示による債権譲渡通知」なんてのはあえてやらなくても、いきなり訴え提起して大丈夫だったりします。
債権譲渡通知したことは請求原因ではなくて、債務者側の抗弁になるからですね。
簡裁訴訟代理等関係業務認定考査を受ける新人司法書士の皆さん、ここは試験に出ますよ!
では、今日はこの辺で。
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