2016年7月3日日曜日

内乱罪は「既遂犯を処罰しない罪」って本当か?

司法書士の岡川です。

ぷらぷらとネットサーフィンしてたら、久しぶりにおかしな記事を発見したので、取り上げましょう。

こんな記事を見つけました。

既遂を処罰していない罪はあるのか?


以前書いた通り、刑法は、既遂犯処罰を原則としており、未遂犯というのは例外です。

しかしこの記事では、次のとおり、内乱罪は、未遂罪のみ処罰する犯罪で、既遂犯は処罰されないというふうに書かれています。

内乱罪の既遂、つまり国の統治機構を破壊したなどという既遂については、処罰規定を置いていません。
これは、内乱罪が既遂となった場合、既に国の統治機構が破壊されるなどして、行為者を処罰することがそもそもできないからです。

誰だ、そんな適当な解説してるのは!

法律の内容を知るには、まず、条文を確認することが大切です。

内乱罪というのは、次のように規定されています。

国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をした者は、内乱の罪とし、次の区別に従って処断する。(刑法77条)

この条文は、このように読みます。

「国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱すること」を目的として暴動をした者

内乱罪の規定する行為はあくまで「暴動」であり、かつ、統治機構の破壊等をその目的とする場合に成立する「目的犯」です。

※目的犯というのは、犯罪の成立に一定の目的が要件となっているものをいいます

内乱罪における統治機構の破壊というのは暴動の「目的」であって、破壊することが犯罪の構成要件要素となっているわけではありません。
実際に統治機構を破壊しようがしまいが、それを目的とする「暴動」を行えば、それによって既遂に達します。

内乱罪も間違いなく「既遂犯」の処罰が規定されているのです。

記事では、
内乱罪は、宿命的に既遂を処罰することができない犯罪なのです。

とまとめられていますが、これは、何かの解説を読んで勘違いしているんだと思います。

内乱罪の保護法益は、国家の存立です。
この国家の存立という法益が現実的に侵害されてしまった場合、(もう国家は存在しないわけですから)暴動をした者を処罰することはできません。

つまり、処罰できなくなるのは、「既遂に達した場合」ではなく「保護法益が現実的に侵害された場合」です。
保護法益の現実的な侵害があった場合に成立する犯罪を「侵害犯」といいますが、内乱罪は、宿命的に「侵害犯として規定することはできない」ということになります。

そのため内乱罪は、法益侵害の危険が発生した段階(ここでは暴動をした段階)で犯罪が完全に成立する「危険犯」として規定されています。

この説明と、既遂犯と未遂犯の話とがごっちゃになっているのでしょう。

危険犯は、危険が発生したときに、既遂になるのです。
決して、未遂犯として規定されているわけではないのです。


犯罪には、

既遂犯と未遂犯
結果犯と挙動犯
侵害犯と危険犯

他にもいろいろとカテゴライズの方法はありますが、それぞれ似て非なるものなので、ごっちゃにならないように注意しましょう。

ま、これを知って役に立つのは、試験前の法学部生くらいだと思いますけどね!

あと、危ないから内乱はやめようね!

では、今日はこの辺で。

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