2017年8月16日水曜日

債権法改正について(5)(時効の完成猶予1)

司法書士の岡川です。

債権法改正について5回目。

取消とか追認とかの規定にも改正はあるのですが、細かい話になるのでスルーして、今日は時効の話。
時効に関しては、そこそこ大改正がされていますので、覚悟してください。


まずは、「時効の完成猶予」の話から。
いきなり新しい概念が出てきましたね。

現行民法では、時効の完成するまでの期間が進行しなくなる制度として、時効の「中断」と「停止」がありました。

時効の中断というのは、一定の事由(例えば、訴えを提起して判決を得たり、債務を承認したり)があると、その時点で時効期間がリセットされる制度です。
「中断」といいつつ、実質的には期間計算のやり直しであって、中断事由が終わった後は、残りの期間経過で時効が完成するわけでなく、またゼロから必要な期間を経過する必要があります(すごろくでいう「振り出しにもどる」状態)。

他方で、「停止」というのは、一定の事由(例えば、時効完成直前に天災が起こって時効を中断できないなど)がある場合に、その事由が終わってしばらくは時効が完成しないという制度です。
こちらは、期間がリセットされるわけではありません。

改正法では、これらを「完成猶予」「更新」という概念で構成しなおしています。
つまり、とにかく時効完成までの期間が進行しなくなるのを全て「完成猶予」といい、そのうえで期間がリセットされる(現行法でいうところの中断)のを「更新」として規定しています。


まず、裁判上の請求等による時効の完成猶予については、改正法ではこうなります。

第147条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第275条第1項の和解又は民事調停法(昭和26年法律第222号)若しくは家事事件手続法(平成23年法律第52号)による調停
四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。

現行法どおり、裁判上の請求等があれば、時効の完成が猶予され、その手続が進行中は時効が完成しません。
そして、判決等によって終了した時点から時効期間が更新されるのは、現行法の中断と同じです。

他方、訴えを取り下げた場合などは、現行法では、「中断の効力を生じない」ことになっていました(現行民法149~152条)が、手続中に時効が完成してしまうということがないよう、時効の完成猶予の効力が生じることとし、ただし、期間の更新はされずに、取り下げた時点から6か月で時効が完成することになっています。

ばらばらに規定されていた条文を整理し、判例法理を明文化だけなので、基本的には現行法とあまり変わりません。
次に、現行法同様、強制執行等でも時効の完成猶予が規定されています。

第148条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 強制執行
二 担保権の実行
三 民事執行法(昭和54年法律第4号)第195条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
四 民事執行法第196条に規定する財産開示手続
2 前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。

前述の裁判上の請求と同じような規定ぶりですね。
実質的には現行法と大きく変わりませんが、疑義のあった部分も含めて明確に規定された形です。

それから、保全手続については、次のように、完成猶予期間が定められています。

第149条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了した時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
一 仮差押え
二 仮処分

見てのとおり完成猶予のみで更新なしですが、実質的には現行法とそう大きく変わりません。


時効の完成猶予は、今回の改正での目玉でもあるので、書くことが多いですね。
この辺で一回切って続きは次回。

では、今日はこの辺で。

0 件のコメント:

コメントを投稿