2020年3月6日金曜日

債権法改正について(40)(賃貸借)

司法書士の岡川です。

賃貸借契約も色々と重大な改正点があります。

といっても、賃貸借という契約類型は、これまでに大量の判例が確立していて(継続的な契約関係であることから、争いになり易いんでしょう)、今回それらが明文化されたという改正が多い。
そのため、条文の改正の多さの割には、実務上それほど大きな変化はないかもしれません。


まず、現行法では、賃貸借契約の存続期間は20年を超えることができません(20年を超える契約を締結しても20年となる)。
期間経過後に更新することはできますが、更新も20年を超えることができません。
これは、あまり長期間の賃貸借を認めると、所有者の権利制限が過酷になりすぎるという配慮だといわれています。

とはいえ、現代社会では20年を超える長期の事業のために賃貸借契約を締結する需要もあり、一律に20年で切るのは短すぎるという指摘がありました。
そこで、上限が一気に50年まで延びました。

とはいえ、借地借家法等の特別法の適用がある場面では、そもそも民法の上限は排除されていましたので、家を建てるための借地などには影響がありません。
賃貸住宅も、だいたい2年契約とかになっていて、更新しながら借り続けることが多い。
なので、影響は限定的ですね。


次に、「対抗要件を備えた賃貸借契約の目的物である不動産を譲渡した場合、賃貸人の地位は当然に譲受人に移転する」というのは、有名な判例で、実務上あたりまえに受け入れられているルールなのですが、これも明文化されました(改正605条の2)。
賃貸住宅の所有者が、その家を他人に売ったら、改めて新しい所有者(買主)と借主が契約し直さなくても自動的に新しい所有者が賃貸人の地位を引き継ぐ、という話です。

このとき、賃貸人の地位を留保する合意をし、かつ譲渡人と譲受人との間で賃貸借契約をする(要するに、旧所有者が新所有者から賃借する)合意をすれば、賃貸人の地位は移転しないというルールが新設されました。
つまり、旧所有者は新所有者から賃借し、賃借人は(従前のまま)旧所有者から賃借(転借?)するという関係になってもよいというわけです。


それから、対抗要件を備えた賃借人は、賃借権に基づき第三者に対して妨害排除や占有回復を請求できることが明記されました(605条の4)。
今までも、判例が色々と理屈をこねて結論的には何かしら請求可能だったのですけど、それが直截的に賃借権に基づく請求権として明文化されたものです。


細かいとこでは、賃貸物の一部が滅失した場合、現行法では賃料減額請求ができることになっていますが、改正法では、請求しなくても当然に減額されることになりました(改正611条1項)。

他にも、結構あたりまえのことが明文化されていますね。
賃貸人に修繕義務がありますが、賃借人に帰責性がある場合は修繕しなくてよいだとか(改正606条1項但書)、賃貸人が修繕してくれないときは賃借人が修繕できるだとか(607条の2)、目的物が全部滅失したら賃借権が消滅するだとか(616条の2)。


敷金の性質が明記されたり(622条の2)、原状回復義務に通常損耗は含まれないことが明記されたり(改正621条)とかは、まあ重要な改正ではあるのですけど、実際の場面として、特に大幅に何かが変わったわけではない(基本的には判例の明文化)ので、条文確認しといてね、といったところ。


では、今日はこの辺で。

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