2020年7月3日金曜日

毎日放送(MBS)の情報番組ミント!に出演

司法書士の岡川です。

もう日付が変わったので昨日の話になりますが、7月2日(木)に、毎日放送(MBS)でやっている関西ローカルの情報番組に出演させていただきました。





前日、元後見人の弁護士が横領で逮捕されたという報道があり、その絡みで成年後見制度の現状(横領事件などの問題も含む)に関する解説をしてほしいという出演依頼によるものです。

私に直接依頼がきたわけではなく、リーガルサポート大阪支部に来た依頼ですけどね。
(私は現在、大阪支部の副支部長をしていますので)

番組は非常に限られた時間で進行しましたので、少し補足的なことを書いていこうかと。


番組の冒頭にも述べたとおり、今回弁護士が逮捕された事件は、元後見人による横領事件ではありますが、実際は、後見が終了した後の話です。

しかも、おそらく財産の引渡しも終えており、その後に、改めて相続人から遺産分割調停の依頼を受け、さらに調停成立後に銀行預金の解約手続の依頼を受けたようです。
その相続人からの委任による解約手続の際に、横領をしたという事件です。
つまり、本件において元成年後見人という立場はあまり関係がありません。

ただ、当初の報道が、「元成年後見人」が大きく報じられたということもあり、改めて成年後見制度にスポットを当てて解説したというのが今回の特集(?)です。


さて、番組中でも解説しましたが、成年後見人による不正は、専門職によるものが多いというイメージがあるかもしれませんが、実は、大多数は親族後見人によるものです。



番組では、後見制度支援信託の導入が横領の減少の理由であるという紹介がされましたが、支援信託は、基本的には親族後見人に適用されるものです。
後見制度支援信託によって、親族後見人による不正が大幅に減少した結果、不正事件総数(被害総額)も大幅に圧縮されたわけです。

(※補足:少し指摘があったので補足。前提として、個人的には後見制度支援信託制度が必ずしも良い制度だとは考えておりませんし、専門職団体での多くの見解も同様です。この制度は資産の大部分を凍結させるものであって、「財産保全」に全力投球した結果、必ずしも本人の利益に適うものではない。さらには、制度が重厚で専門職の負担も大きく、本人の経済的負担もあります。現在は、後見制度支援預金制度というのもあり、こちらは手続的にはかなり軽量化されていますので、今後はそちらが主流になるでしょう。ただ、客観的事実として、2014年以降の親族後見人による不正減少の「一因」であったことは確かなので、番組で用意された支援信託の説明自体は否定していません。ただ、もちろん本番では、支援信託が不正減少の全てではない、というところまで解説しています。)

番組中でも解説しましたが、この不正事件の大部分を占める親族後見人による不正も、必ずしも悪意(これは日本語の普通の意味の「悪意」です)をもって財産侵害をしているものではなく、法律や制度の理解不足から「これくらいの金額は、(自分のために)使ってもいいだろう」という甘い観測が、法的にみれば不正に当たるということが多く含まれています。
もちろん、「悪意がないから許される」というものでもないわけでして、そこは不正認定されることは当然ではあるのですが、少し「横領」のイメージからズレがあるかもしれません。

さらに、親族後見人の不正が大多数であるといえども、さらにその外側には、圧倒的多数の「不正を行っていない親族後見人」が存在するわけです。
そして、それよりさらに多くの「不正を行っていない専門職後見人」が存在し、成年後見制度を健全に運用しています。

もちろん、不正というのは1件たりとも許されないので、ごく少数だから良いというものではありませんが、その1件があるから制度そのものがダメな制度というふうな極論に振り切った理解をしてはいただきたくない、と思います。

これは、成年後見制度によって助かった高齢者や障害者の方々を多く見てきている者としての感想です。


後見人の不正防止に関しても、全く機能していないわけではありません。

例えば今回の弁護士の横領の件ですが、成年後見人として自由に預金を引き出す権限を有していたにもかかわらず、成年後見人であった(本人が生きていた)間は、横領をしていなかったわけです。
これは、成年後見人である間は、広範な権限がある一方で、常に裁判所の監督下にある(定期的に報告しなければならないので、横領したら発覚してしまう)ことから、不正ができなかったのかもしれません。

結局、本人が亡くなって後見人としての地位を退いた後、すなわち裁判所の監督から抜けた後で、相続人から預かった財産を横領をしたわけです。


例えば、犯罪機会論的な話でいうと、「監視性」というのは、犯罪抑止の要素であり、定期的な報告で常に管理財産をチェックされている状況というのは、犯罪(横領)の機会(犯罪をしやすい環境)を奪うという意味で、一定の犯罪抑止効が期待できます。

もちろん、人類の歴史上、いかなる刑事政策上の理論に則った施策も、犯罪を「0」にすることに成功していない(そして、今後も犯罪が「0」になることはあり得ない)のと同じく、それだけでは後見人による不正を「0」にすることはできません。

犯罪対策というのは、「ある程度の抑止効果」が認められる施策を積み重ねていき、件数を限りなく「0」に近づけるしかできないわけです。

が、今回の弁護士に関してはむしろ、この抑止効果が機能していた例なのではないかとも考えられます。


それはさておき、最後は、誰が成年後見人になるのか?というお話でしたね。



最後の最後で、「報酬ゼロ」という事例を紹介されました。
番組中でも説明したとおり、我々専門職は、業務(仕事)として、報酬をいただいて後見業務を行っていますが、中には報酬ゼロで受けている案件もあります。

「専門職の皆さんは、なぜ報酬ゼロで受けるのですか?」と問われたとき、「(後見業務は)公益的な側面があるので、制度の利用を必要としている方が相談に来られたときに、『報酬が払えないなら無理です』とは言い切れない」という趣旨の回答をしました。

ここで時間の関係もあって、何か私がすごく使命感の強い素晴らしい人みたいな感じでコーナーが終わってしまったので、私個人的には好感度も爆上がりで何ら問題ないんですが、公正を期すために補足しておくと、このような無報酬案件は、多くの専門職が少なくとも1件や2件程度は受けているものです。
多い人だと、そういうのを3件でも4件でも5件でも受けている。
私が特別に、使命感から引き受けているわけではありません(私よりたくさん、無報酬案件を引き受けている専門職はたくさんいます)。
そこは、正しく認識していただければ、と思います。

無報酬案件の話、番組の打ち合わせでもスタッフの方にしたんですけど、ものすごく驚かれました。
本番でも出演者の皆さん驚いていましたね。
我々にとっては、かなり普通の話だったので、逆に「え、そんなに驚かれる?」というレベルだったのですが、実は、そういうのが現状なのです。


そして、このような使命感に頼った制度は、今まさに限界を迎えているところです。
まあ平たく言えば、「これ以上は、もう受けきれない」という声が噴出しているわけですね。

お金がなくて必要なサービスが受けられない方については、本来的には、公的な制度で支援するのが筋なのですが、現状は、民間事業者の使命感(一種のボランティア)に頼り切った構造になってしまっています。

この辺の問題点も、番組で触れられたら良かったんですけど、今回のテーマからだいぶそれてしまうので触れられませんでした。
また何かの機会にでも。


とまあ、なんせスタジオでガッツリ解説するためのテレビ出演とか初めてだったので、言葉足らずで何か誤解を生んだり、誰かを不快にさせたりしてないかなとか気にしたりもしてるんですけど、まあ、私の周りでは概ね好評だったので良かったです。

また機会があれば、出演したいですね。

次は、例えばシェルティをもふもふしながら、その魅力を30分くらいかけて語ったりしたいです。

では、今日はこの辺で。

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