2020年9月13日日曜日

「事務管理」について(後編)

司法書士の岡川です。


前回の続きで、今日も事務管理の話。


民法上の「事務管理」が成立するとどうなるか、というところから再開です。


事務管理が成立する場合、まず、違法性が阻却されます。


これは民法に明文では書かれていませんが、例えば、他人の家の窓を修理するのに勝手に敷地に入ったり枠を外したりする行為は、形式的に見れば不法行為を構成するわけですが、民法が事務管理を正当なものとして規定している以上、この場合に不法行為は成立しないと解されています。


その他、管理者に権利と義務が発生します。

権利は、費用の償還請求権です。

契約で定めた場合と違って報酬を請求することはできませんが、予め「かかった費用は本人が負担する」と約束しなくても、当然に本人に請求できます。


他方で、義務として、「管理継続義務(管理を開始したときは、本人等が管理をすることができるようになるまで管理を継続しないといけないという義務)」「善管注意義務」「管理開始通知義務(遅滞なく本人に通知しないといけないという義務)」「計算義務(管理状況の報告や受け取った物の引渡し等の義務)」など、委任契約と同じような義務が発生します。


完全に好意で始めたとしても、始めたなら最後まできっちりやらなければならないのです。

「別に頼まれてないし」とか「報酬もらってないし」とかいう言い訳は通用しません。



ここまでが通常の「事務管理」の効果なのですが、事務管理には、さらに特殊なケースを想定した「緊急事務管理」というものがあります。


緊急事務管理とは、「本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたとき」をいいます。


例えば、行き倒れの人を救助するために、衣服を切るとか、車にひかれそうになった子供を突き飛ばして助けるとか、そういうことです。

ますます「事務」の語感からは外れていますが、これらも事務管理になります。


このような緊急事務管理では、「悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。」とされています。


「隣の人が海外旅行中に台風が直撃してその人の家の窓ガラスが割れていたので、修理した」という教科書事例に遭遇することは、あまりないでしょうが、「特に義務のないけど他人のために何かをやる」ということは珍しくはないでしょう。

その場合に費用を払ってもらいたいということもありえます。


もしかしたら、その根拠は「事務管理」かもしれません。


では、今日はこの辺で。

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