2021年1月18日月曜日

「マルチまがい商法」はマルチ商法だという話

司法書士の岡川です

前回、「キングコング西野さんはマルチ商法はしていないという話」を書いたのですが、マルチ商法というのは、「会員に高額な品物を売りつける怪しげな商売」のような意味ではなく、「『他の会員を加入させたらあなたの儲けになる』として新規会員を勧誘して物を売る手法」をいいます。
これにより、連鎖的に会員が会員を勧誘して階層組織が出来上がるから「マルチ(multi-level=多層の意味)」商法というのです。

人を増やすことで利益を上げるというマルチの仕組みは、実際のところは大多数が利益を上げられずに損をするものなので、野放しにして損害が広がらないよう法律による規制の対象にもなっています。

他方で、どんなに高額な物を売っても、人を組織に勧誘しなければ、階層組織を形成するというマルチの手法ではありませんから、仮にそれが悪質な売り方だったとしても「マルチ以外の悪質商法」ということになります。


「物を売っても人を勧誘しなければマルチじゃない」として、では逆に、「人を連鎖的に勧誘するけど物は売らない」という場合はどうなるか。


マルチ商法は、自己の利益のために他の会員を勧誘して組織を拡大すること(その結果、階層組織になること)が本質ですから、その際に金を受け取る名目として、直接物を売るかどうかはそれほど重要ではありません。

ところが、法律がある行為を規制するにあたっては、一定の要件を基準にマルチ商法を定義してそれを規制します。
そのため、定義の仕方によって、概念的にマルチ商法に含まれる取引形態と、法が規制対象として定義する取引形態の間に間隙ができてしまいます。


かつての訪問販売法(特定商取引法の旧称)の規定では、「人を加入させればお金がもらえる」という誘い文句で「物品を再販売する」という形態のみを法律上のマルチ商法(連鎖販売取引)と定義していました。

そうすると、「物品」の再販売じゃなければ定義から外れるので、勧誘相手に「サービスを提供」してその対価を得る形であれば法的にはマルチ商法には該当しない。
あるいは、物品の「再販売」じゃなければこれも定義から外れるので、勧誘相手に直接物を転売するのではなく、委託販売やら販売のあっせんという形にして、相手には「本部から物を売る」システムであれば、これも法的にはマルチ商法には該当しなくなります。

構造としては明白にマルチ的なもの(したがって、マルチ商法と全く同じ危険性を有する取引)であっても、法律上のマルチ商法(連鎖販売取引)の定義には当てはまらない。
こういうものは、「マルチまがい商法」と呼ばれていました。


しかし、昭和63年法改正により、連鎖販売取引の定義が拡張され、上記のようなサービスの提供であったり、委託販売型や紹介販売型のマルチ的なものも全て連鎖販売取引の定義に加えられました。

現行法の連鎖販売取引の定義はかなり広いので、これにより、かつては規制から逃れて「マルチまがい商法」と呼ばれていたものは、現行法では全て「連鎖販売取引(マルチ商法)」の定義に当てはまるようになっています。



すなわち、「マルチまがい商法」というのは、現行法では全てマルチ商法なのです。



現行法の定義では、「マルチまがいだけどマルチではない」ものが存在する余地はあまり想定できません。
そうすると、現在「マルチまがい」だと批判されるものがあるとすれば、実際のところは、「マルチっぽいどころかマルチそのもの」という場合か、「手法が全くマルチ的でない」のどちらかだということになります。

例えば、「ネットワークビジネス」というのも、マルチ「まがい」ではなく、呼び方を変えているだけで結局は連鎖販売取引(マルチ商法)そのものです。

仮に、「ネットワークビジネス」と称しているにもかかわらず、人を連鎖的に勧誘することが想定されていないものがあるとすれば、それは確かにマルチ商法ではありませんが、同時に、本来の意味のネットワークビジネスでもない「何か」です(マルチと違って安全な取引か、あるいはマルチ以上に危険な何かかもしれない)。


ところで、物を売るかどうかは本質的ではないといいましたが、その究極として、勧誘時に物を売らないどころか、サービスも提供しない、委託販売も販売のあっせんもしないという場合はどうでしょう。

他人を「あなたも他の人を勧誘すれば金を貰えますよ」といって勧誘して金を受け取る。
これを連鎖的に繰り返せば、物品もサービスも介さず、金のやり取りだけでも階層組織ができあがります。


これがいわゆる「ねずみ講」です。


ねずみ講は、法律用語としては無限連鎖講といいます。


文字通り無限に連鎖することができれば、理屈上は皆が儲かるのですが、当然ながら人間の数は有限ですからその想定は絶対に成立しえない。
そうすると、無限連鎖講というのは、破綻することが確実なシステムです。
つまり、階層組織の上層にいるごく一部の人間以外の全員が絶対に損をします。


ここまでくると、連鎖販売取引のように「特定商取引法のルールを守っている限り合法」とかいってる場合ではありません。

一般のマルチ商法は、「ルールを守らない勧誘が行われた場合に違法になる」のですが、ねずみ講は、特定商取引法とは別の法律で、それ自体が違法とされています(最高で懲役3年です)。

マルチ商法といわれる取引の中にも、実質的には物品の売買やサービスの提供が行われず、単に金銭が移動していくだけのものについては、連鎖販売取引どころか、無限連鎖講に該当することがあります。


ねずみ講は絶対に儲かりませんから、手を出さないようにしましょう。

世の中そんなにうまい話はありませんから。


では、今日はこのへんで。

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