2013年9月3日火曜日

罪刑法定主義の派生原理その4「絶対的不確定刑の禁止」

司法書士の岡川です。

罪刑法定主義の派生原理として、これまでに「法律主義」「遡及処罰の禁止」「類推解釈の禁止」の3つを紹介しました。
代表的な派生原理は4つあるのですが、最後の1つは「絶対的不確定刑の禁止」です。

絶対的不確定刑とは、刑法(刑罰法規)に、刑の分量(刑期)が全く法定されていないことをいいます。

現行刑法は、「何年以上(あるいは何年以下)の懲役」のように、法定刑の上限と下限を定めていることが一般的です。
「5年以上の懲役」なら「下限が5年で、上限が20年以下の懲役」を意味しますし、「3年以下の懲役」なら「下限が1か月で上限が3年の懲役」を意味します。
その法定刑の枠内で、裁判官が量刑を決めることになります。
法定刑は完全に確定していませんが、上限と下限の枠が定まっているので、完全に不確定というわけではありません。
こういう定め方を「相対的不確定刑」といいます。
これはもちろん禁止されていません。

これに対し、枠すらも決められておらず、完全に不確定な刑が法定されている場合を絶対的不確定刑といいます。
例えば、「カピバラを殺した者は、懲役に処する」のような具合です。
さらには、「カピバラを殺した者は、刑罰に処する」というふうに、刑の種類すら法定しない場合も、絶対的不確定刑になります。

罪刑法定主義とは、犯罪と刑罰を予め国民に提示しておくことで、国民の自由を保障するものです。
そうすると、「何が犯罪で何が犯罪でないか」だけでなく、「その犯罪にどのような刑罰が科せられるか」も予め法律で定めておくことが必要です。
その行為が「犯罪かどうか」に加え、犯罪だとしたら「どの程度の犯罪か」まで知っておかなければ、行動指針として不十分だといえます。
「どの程度の犯罪か」を示すのが法定刑の種類と量だからです。
したがって、あらかじめ法律で法定刑の「枠」を全く定めずに、刑の選択を裁判官の自由裁量に委ねるということは許されないという原則が「絶対的不確定刑の禁止」の原則です。


なお、「不確定刑」とは、法定刑が不確定であること(裁判官の裁量に委ねられていること)を指す用語です。
「不定刑」とか「不確定法定刑」という場合もあります。

これと似たような概念として、「不定期刑」というものがあります。
これも不確定刑と全く同じ意味(法定刑が不確定であることの意味)で使い、罪刑法定主義の派生原理として「絶対的不定期刑の原則」ということもありますが、両者は一応区別されている概念です。

不確定刑と区別される場合の「不定期刑」とは、裁判官が刑を言い渡す際(=宣告刑)に刑期を定めないことをいいます。
つまり、「不確定刑」とは法定刑の話であり、「不定期刑」とは宣告刑(特に懲役や禁錮といった自由刑)の話ということです。

そして「被告人を懲役に処する」のような、刑期を全く定めない場合を「絶対的不定期刑」といい、「被告人を3年以上5年以下の懲役に処する」のように、枠を定めて言い渡す場合を「相対的不定期刑」といいます。

不定期刑の言い渡しは、犯罪者の更生の程度に合わせて刑期を判断できるという意味で、合理的な面があります。
他方で、被告人の立場を不安定にするものであり、望ましいものではないとも考えられています。
ただ、いずれにせよ、絶対的不確定刑の法定を禁じる罪刑法定主義の問題とは少し次元が異なります(罪刑法定主義の「趣旨」とか「精神」に反する、といった指摘がされる場合もありますが)。

つまり、「絶対的不定期刑の禁止」といった場合も、罪刑法定主義の原則では「絶対的不定期刑の法定」が禁止されているということを意味します。
ややこしいので、刑の種類や分量を定めない法定刑のことを「不確定刑」、刑期を定めない宣告刑のことを「不定期刑」と使い分けるのがスッキリして良いですね。

日本の現行法では、(宣告刑としての)絶対的不定期刑を認めるものはありませんが、少年法上、相対的不定期刑の制度は存在しています。
これは、少年に対する刑罰については、制裁としての面より、教育や更生という面が強調されるからです。


では、今日はこの辺で。

罪刑法定主義シリーズ
1.罪刑法定主義
2.罪刑法定主義の派生原理その1「法律主義」
3.罪刑法定主義の派生原理その2「遡及処罰の禁止」
4.罪刑法定主義の派生原理その3「類推解釈の禁止」
5.罪刑法定主義の派生原理その4「絶対的不確定刑の禁止」 ← いまここ
6.罪刑法定主義の派生原理その5「明確性の原則」

0 件のコメント:

コメントを投稿