2013年5月9日木曜日

武富士訴訟とは?

司法書士の岡川敦也です。

今日から(正式に)ブログを始めることになりました。
このブログでは、法律のことやそれ以外のこと、業務に関係することしないこと、生きてる上で役にたつことそうでもないこと、などなど、思いついたことを自由に発信していこうと思っています。


さて。

昨日、武富士の元代表取締役に対する責任追及訴訟(のうちの1件)の第一審判決が広島地裁でありました。

消費者金融「武富士」(会社更生手続き中)の元利用者ら約150人が利息制限法の上限を超える利息を支払わされたとして、元社長ら3人を相手に総額約2億 1000万円の損害賠償を求めた訴訟で、広島地裁(梅本圭一郎裁判長)は8日、原告側の請求を棄却する判決を言い渡した。原告側は控訴する方針。(時事通信)

ところで、マスコミの報道の仕方をみると、若干誤解を招くような見出しがつけられていますね。

「武富士過払い金訴訟」(共同通信、日本経済新聞)
「武富士利息訴訟」(毎日新聞)

この裁判は、いわゆる過払金返還請求事件ではありませんので、「武富士過払い金訴訟」はかなり不正確ですし、「武富士利息訴訟」だともはや何の訴訟かわからないですね。
さらに、武富士を相手にした訴訟でもありません。

ちなみに、その「武富士」ですが、かつて「武富士」と名乗っていた会社は、昨年商号変更して、今はTFK株式会社という名前の会社になっています。
(TFKって何の略だろう?Take Fuji Kaisha-kousei-tetsuzuki-chu-no 株式会社?)

訴訟の構造としては、元代表取締役という「個人」を訴えているわけであり、武富士(TFK)という会社は直接の当事者ではありません。
また、当然ですが、武富士からお金を借りていた人らも、別にお金を元代表取締役個人に支払っていたわけではありませんから、元取締役らに「過払金の返還」を求めているわけでもないのです。

あくまでも、「武富士の元代表取締役」に対する「損害賠償請求」の裁判です。

なぜ「武富士」に対する「不当利得(過払金)返還請求」の裁判じゃないのかというと、武富士は既に会社更生手続に入っているからです。
会社更生手続というのは、倒産処理手続の一種で、経営破綻した会社が負っている債務の額を、その後何年間かで計画的に返済できる額まで減額し、会社を復活させるための手続です。
要するに、会社が支払わなければならない債務の額を大幅にまけてもらうわけです。
武富士の場合、とりあえず3%程度に減額されることになったようです。

「3%引き」じゃないですよ。「97%引き」です。

100万円の過払金が、3万円返せばチャラになるわけで、残りの97万円を請求することはできません。


そんなんやってられるか!ということ元代表取締役に怒りの矛先が向き、現在に至るというわけです。


例えば中小企業の社長さん(代表取締役)なんかだと、会社が倒産すれば、自身も一緒に破産してしまうことも少なくありません。
経営が悪化したら、まず自腹を切って会社を支え、それでも何ともならずに会社を倒産させるからです。

それが正しいことなのかどうかわさておき、日本で会社が倒産するということは一般的にはそういうことです。


他方、武富士の元代表取締役は結構儲けていたらしくて、会社からの多額の役員報酬で蓄えた個人資産を会社再建のために充てることなく、退陣しています。
もちろん、「会社」という仕組みからいえば、「会社は会社、役員は役員」なので、法的には個人資産を会社のために使う必要はないというのが原則です。


そうは言っても、「お前は経営者だろ、会社が倒産したのはお前の経営者としての職務を全うしなかったからだろ、だったら、俺らに損害(=倒産しなければ100万円返してもらえてたのに、それが3万円になった!)を与えたのはお前だろ!」といいたくなるのが債権者たちの心情で、実際にそういって全国で訴えたのが、今回の裁判です。
なお、こういう代表取締役個人の責任を追及する根拠は、きちんと会社法に規定されていまして、

(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
第429条 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

とされています。
これは、会社(武富士)に対する任務懈怠があり、それによって第三者に損害を負わせた場合に役員等に責任を負わせる規定であって、第三者(過払金債権者)に対する何らかの故意過失(義務違反)が問題になっているわけではありません。

これを根拠に全国で提起された訴訟のうち、広島地裁で審理されていた1件について判決が出ました、というのが今回のニュースです。
結果的には、請求棄却(原告敗訴)だったようですね。


というわけで、武富士訴訟とは、「武富士の旧経営者個人に対する責任追及訴訟」のことなのです。

そういう訴訟ですから、原告になり得るのは、別に過払金の債権者に限らないわけです。
他にも、何でもいいから武富士に債権を有していた人は、(基本的には)債権額は同じように大幅に減額されてしまうわけで、それをもって、「きちんと適法な金利で営業せず、会社を破綻に追い込んだ旧経営陣の責任を問う」ということもあり得たわけです。
争点は、過払いがあるかないかみたいなことじゃなくて、むしろ会社法上の責任を負うかどうか、という点にあります。


そう考えると、新聞社の「過払い金訴訟」という見出しがミスリードであることがわかりますね。


では、今日はこの辺で。

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