2013年7月10日水曜日

「非嫡出子(婚外子)差別」のおさらい

司法書士の岡川です。

非嫡出子の相続分の規定について、違憲判決が出る可能性が高くなってきました。

(追記:違憲決定出ました→「非嫡出子(婚外子)差別の違憲決定」)

婚外子相続規定:最高裁大法廷で弁論 合憲見直しの可能性(毎日新聞)
結婚していない男女の間に生まれた非嫡出子(婚外子)の遺産相続分を嫡出子の半分とした民法の規定が、「法の下の平等」を保障する憲法に違反するかどうかが争われた家事審判の特別抗告審で、最高裁大法廷(裁判長・竹崎博允<ひろのぶ>長官)は10日午前、当事者の意見を聞く弁論を開いた。婚外子側は「規定は憲法違反で、直ちに司法の救済が必要だ」と訴えた。今秋にも大法廷が、従来の合憲判断を見直す可能性が高まっている。

嫡出子とは、「夫婦の間の子」です。

典型的には、夫婦が結婚した後に懐胎(妊娠)し、生まれた子が嫡出子です。
民法の規定上、嫡出子の推定を受けるのは、「妻が婚姻中に懐胎した子」(民法772条)だけですが、結婚前に懐胎(いわゆる「できちゃった婚」「おめでた婚」)した場合であっても、嫡出子と認められます(これを「推定されない嫡出子」といいます)。
ただし、結婚前の懐胎は、婚姻中に懐胎した場合と違って嫡出子の推定を受けないため、あとで揉めたら少し大変なことになる可能性は残っています。

特に、離婚した直後に別の男との間の子を懐胎するのは、リスクが高いのでやめた方がいいですよ。
嫡出がどうかという点を除いても、「この子の(法律上の)父親は誰だ!」ということで問題となり、下手すると裁判沙汰です。


嫡出子になるもうひとつのパターンが「準正」という制度です(民法789条)。
準正とは、「父親が子を認知した後に両親が結婚する場合」または、「両親が結婚した後に父母が認知する場合」をいいます。

母親については、分娩の事実だけで認知をしなくても母子関係が成立すると考えられていますので、結局のところ、「両親の結婚」と「父親の認知」の両方がそろった場合を「準正」といいます。
準正があれば、その子は嫡出子の身分を取得します。

この嫡出子の定義に当てはまっていれば、別に母子家庭でも父子家庭でも関係ありません。

例えば、婚姻中に懐胎したがその後に両親が離婚したような場合、出産時に母親に夫はいなくても、生まれてきた子は、元夫との間の嫡出子です。
この場合、父親の認知も不要で、もし父親が「俺の子じゃない」と言いたければ、父親の側から嫡出否認の訴えを提起しなければなりません。

そして、どのようなパターンでも、一度嫡出子になれば、あとは両親が離婚しようが再婚しようが、嫡出子の身分を失うことはありません。


嫡出子と非嫡出子(婚外子)の違いは、書類上の問題として、戸籍の記載が違うなどの点があるのですが、実体法上の最大の違いは、嫡出子と非嫡出子では、法定相続分が異なるということです(民法900条4号)。
具体的には、非嫡出子の相続分は、嫡出子の2分の1になります。

具体例として、被相続人A、その妻B、その子がCDEという5人家族があるとして、Eが非嫡出子とします。

このような家族構成になる理由としては、いくつか考えられます。

例えば、Aが独身女性Fと浮気し、AとFとの間に生まれた子をAが認知した場合ですね。
あるいは、AがB結婚する前の独身時代に独身女性Gと交際し、AとGの間に生まれた子を認知したが、AとGは結婚しないまま別れ、後にAとBが結婚した場合も考えられます。

いずれにせよ、このようなときにAが死んだ場合の法定相続分は、Bが妻として2分の1で、CDEが子として残りの2分の1になります。
そして、CDEの分け方は「非嫡出子は嫡出子の2分の1」になりますので、最終的な取り分は、

Bは10分の5
Cは10分の2
Dは10分の2
Eは10分の1

となります。

この点について、「嫡出子と非嫡出子で相続分に差があるのは、差別だ」として、昔からその規定の合憲性(平等原則を定める憲法14条違反)が争われてきました。
過去に争われた裁判では、最高裁判所は、「結婚」という制度を尊重するためのもので不合理な差別ではないと判断し、この民法の規定は合憲だと判断していました。
以後、実務上、民法の規定の通りに動いています。

今回の事件も、一審と二審は、過去の最高裁判例と同様、合憲と判断しました。
そこで、最高裁判所までいったわけですが、大法廷で口頭弁論が開かれることになりました。

最高裁判所は、裁判官15人全員で構成される「大法廷」と、5人で構成される「小法廷」(第一から第三まで)があります。
そのうち大法廷は、特に重要な判断をする審理を取り扱い、ここでは違憲判決や判例変更をすることができます(裁判所法10条)。

また、最高裁判所は、理由がないとみれば、口頭弁論を開くことなく(つまり、当事者を裁判所に呼ぶこともなく)特別抗告を棄却することができるのですが、原審(今回だと東京高裁)の判断を覆すような場合は、口頭弁論が開かれます。

と、いうことは、最高裁は、判例を変更し、民法の規定は違憲だと宣言し、東京高裁の決定を破棄する・・・という可能性が出てきたわけですね。
もちろん、決まったわけではなく、大法廷が口頭弁論の末「やっぱ、東京高裁のいうとおりだわ」と判断する可能性もありますが。

さて、最高裁はどう判断するでしょうか。
違憲判決が出れば、民法改正という話になってきます。

では、今日はこの辺で。

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