2013年7月11日木曜日

成年後見制度と犯罪

司法書士の岡川です。

最近、成年後見人であった弁護士による横領事件について、相次いで2件の有罪判決が出ました。

成年後見の預かり金着服、弁護士に実刑判決(読売新聞)
成年後見人として管理していた知的障害のある男性の預かり金1270万円を着服したとして、業務上横領などの罪に問われた東京弁護士会所属の弁護士、関康郎被告(52)に対し、東京地裁は9日、懲役2年6月(求刑・懲役4年)の実刑判決を言い渡した。

弁護士として申し開きできない、成年後見人弁護士に有罪判決(産経新聞)
成年後見人として財産を管理していた女性から約1100万円を着服したとして、業務上横領罪に問われた大阪弁護士会所属の弁護士、小幡一樹被告(45)に対する判決公判が2日、大阪地裁で開かれた。石井俊和裁判長は「成年被後見人が生活原資を失いかねない危機にさらされた。厳しく非難される」などとして懲役2年6月、執行猶予4年(求刑懲役2年6月)の有罪判決を言い渡した。


いずれも、弁護士、すなわち専門職後見人による犯罪行為です。
成年後見人が被後見人の財産を横領して逮捕(起訴)されたというニュースは、今年に入ってからのものだけでも、東京弁護士会の元副会長(合計4200万円横領)と兵庫弁護士会所属の弁護士(合計2700万円横領)の事件がありますので、これらの事件についてもそのうち裁判が行われるでしょう。
いずれも被害額は1000万円を超えており、一般市民が被害者であることを考えれば、巨額の横領事件です。

ちなみに、今年に入ってからの有罪判決の報道としては、群馬司法書士会所属の司法書士が250万横領で実刑判決を受けた事件があります。
恥ずかしい話ですが、司法書士が横領事件を起こすこともあるわけです。
司法書士であれ弁護士であれ、専門職に対する信頼を裏切る行為であり、断じて許されるものではありません。

今紹介した事件は弁護士の事件が多いですが、これは別に弁護士に恨みがあるわけでも弁護士に対してネガティブキャンペーンをやろうとしているわけでもなく、事実として、弁護士による横領事件報道が多いのです。
もちろん、弁護士の犯罪ばかり報道されるのは、弁護士ばかりが犯罪に走っているからというわけではありません。
実際には、報道されないような親族後見人の犯罪の方が圧倒的に多く、専門職後見人による犯罪というのは、数としてはそれほど多いものではありません。
さらに、弁護士ほどではないとはいえ、上に紹介した通り、司法書士による横領事件もありますし、過去には同じく専門職の社会福祉士による横領事件もありました。

あるいは、ほかにも明るみになっていない事件もあるでしょう。

にもかかわらず弁護士の犯罪ばかり報道されるのは、その社会的地位・責任によるものです。
そこは、一応、客観的事実としておさえておかなければならないポイントだと思います。
ですが、司法書士・社会福祉士も含め、専門職後見人による横領事件というのは、「少なけりゃいい」というものでもありません。
横領というのは、過失犯ではなく故意犯です。
しかも、確実に確定的な故意をもって実行する犯罪です。
うっかりミスでやってしまう類の犯罪ではありません。
専門職後見人による横領事件は、たとえ1件であったとしても「多い」と思います。
0件でなければいけない。

全くの他人である専門職後見人に自分(や家族)の財産を預けるのも、家庭裁判所が専門職後見人を選任するのも、全ては「信頼」に基づくものです。
信頼して預けられた財産を横領するということは、横領した本人の信頼だけでなく、他の多くの専門職後見人に対する信頼、もっといえば、成年後見制度そのものに対する信頼を揺るがす行為です。

横領した本人の信頼が地に落ちようが資格を剥奪されようが、自業自得なので知ったこっちゃないですが、1件でも不祥事があれば、高齢者等の権利を擁護するための有効な制度であるはずの成年後見制度そのものや、その制度を支える専門職後見人に対し、疑念を抱かせることになります。
直接的には、横領罪はあくまでも後見人と被後見人の間で起きた犯罪ですので、「被後見人の信頼を裏切り、財産的損害を与えた」という点で罪に問われるわけですが、その次元にとどまらない罪深さがあるといえます。

「司法書士に任せておけば安心」と、誰からも思ってもらえるようになりたいものです。

では、今日はこの辺で。

(参考)
成年後見制度入門

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