2013年8月22日木曜日

ニート300人が取締役となるNEET株式会社の行方

司法書士の岡川です

色んな意味で面白い記事を見つけました。

ニート300人集まって会社設立へ 全員が取締役に(朝日新聞)
全国から集まったニート全員が取締役になり、会社を立ち上げる――。そんな企画が進行中だ。手を挙げたのは約300人。

300人というのもまだ確定していないようですが、ニートが集まってみんなで出資しあってみんなで経営する会社を作ろうという企画のようです。
ちなみに事業内容はまだ未定のようです。

「会社」というのは、何かの事業を行うためのツールのひとつに過ぎません。
何らかの事業をするには個人企業でもいいわけですが、事業の規模を大きくしたり、資金を集めたり、信用を高めるために会社を作るのです。
なので、「何をするか決まってないけどとにかく会社を作ろう」というのは、手段の目的化といえなくもない。

が、とにかくニートに社会に出てもらうための企画としては面白くていいんじゃないでしょうか。
私は、(他人に迷惑かけなければ)面白けりゃ何でもいいっていうタイプですので、こういうネタ・・・もとい、企画は結構好きです。

もっとも、既に「企画倒れ」もしくは「出オチ」臭がプンプンしていますが、もっともっと面白くなるといいですね。


さて、ただのネタ好き人間の野次馬的視点からの無責任な楽しみ方はともかく、実は会社法の専門家でもある司法書士の視点でこの企画を見てみましょう。

取締役の人数というのは上限がありませんので、欠格事由に該当さえしなければ、300人だろうが3000人だろうが取締役を選ぶことが可能です。

ただ、取締役会を設置するかどうかにかかわらず、会社の業務は基本的に取締役の過半数で決めます。
300人といえば、参議院議員より60人ほど多い。
まー、物事が決まるとは思いませんなぁ~。


取締役会が設置されるとすれば、取締役会の議決により業務執行の決定を行います。
取締役会は、取締役の過半数が出席しなければ開けませんので、少なくとも151人が出席することになります。

議事録に出席取締役全員の押印が必要なのですが、その場合は、議事録には最低でも151人分の押印がなされます。
取締役会を設置しない場合は、取締役全員の過半数で決するので、何らかの決定を証明する書類を作成すると、同じくそこには少なくとも151人分の押印があると考えられます。

そして、代表取締役を選定する場合など、議事録の押印について全員の「実印」が必要になる場合もあるのですが、その場合、法務局の登記官は、少なくとも151人分の実印について、添付された印鑑証明書との印影照合をするハメになります。
登記官泣かせの会社ですね(登記手続きを司法書士が行った場合、その司法書士も同じく、最低151人分の印影照合をしないといけない)。


誰を代表取締役にするか、というのも考えなければなりませんね。
代表取締役は、「取締役の中の代表者」ではなく、「代表権をもった取締役」の意味なので、これも別に1人とは限りません。
特に、取締役会を設置していない会社では、会社法の建前では、取締役全員が代表取締役であることが原則です(実際は、あまりそんなことはしませんが)。

つまり、取締役が300人いれば、代表取締役を300人にすることも可能です。

代表取締役は、各自会社を代表しますので、全員がそれぞれ自分の代表者印(いわゆる「会社の実印」)を持つことができます。
ということは、やろうと思えば、日本中に散らばった代表取締役300人が、そこらじゅうで色んな契約することができます。
そんな危なっかしい会社と取引をする相手がいるとは思いませんが。

300人もいれば、取締役の相互監視監督も行き届かないでしょうし、アホなことをしだす人間も出てくるでしょう。
その場合、他の取締役も任務懈怠の責任を問われる可能性もあります。

ぜひとも、代表取締役は1人又は数人だけにしておきましょう。


ところで、取締役の氏名は登記事項ですから、登記簿には、300人の氏名がずらーっと並ぶことになります(→参照「登記簿には何が載っているか」)。
登記簿謄本(現在事項証明書)の役員欄には、1ページに15人くらい取締役が載せられるので、取締役の氏名だけで20ページくらいになりますね。

また、代表権を持つ取締役は、代表取締役として住所氏名が「取締役」とはまた別に登記されます。
仮に300人が全員代表権を持つとすれば、登記簿謄本の取締役が20ページ終われば、その後にまた同じ人数分の代表取締役がずらーっと20ページ続きます。

また、役員変更(任期満了後に再任された場合も含む)があったりすれば、履歴事項証明書のページ数はえらいことになりますね。

ちなみに、登記簿謄本は、50ページを超えると手数料が割増されますので、NEET株式会社の履歴事項証明書をとるときは要注意ですね。


まあ、そんな感じで色々と面白いことがおこりそうで、赤の他人として傍観する分には楽しいですね。

ただ、現実的なことをいうと、取締役(特に代表取締役)になるということは、「労働者」の地位を捨てるということですから、色々と社会保障(雇用保険とか)が使えなくなる覚悟はしておきましょう。
何だかんだいって、労働者というのは法律上は厚く守られているということをお忘れなきよう。


考えればいろいろ大変なことが出てきそうですが、まあ、頑張ってもらいたいですね。
設立されたら、記念に登記簿謄本とってみます。

では、今日はこの辺で。

→続きはこちら「所有と経営の分離

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