2013年8月24日土曜日

所有と経営の分離

司法書士の岡川です。

前回のNEET株式会社の話に続き、せっかくなので、ここで株式会社の話を続けましょう。

そもそも、ニートたちが集まって、株式会社を作ると何かいいことがあるのでしょうか(「話題性があって面白い」というのは、ひとまず横に置いておきましょう)。

当然ですが、何かの事業を行おうとすれば、資金が必要です。
また、その資金を使って事業を運営する人が必要ですし、経営方針に従って、実際に現場で働く人も必要です。

事業を経営する主体(企業)のもっとも原始的で原則的な形態は、いわゆる個人企業です。
町の八百屋さんとか魚屋さんのように、店主が個人で事業主となり、店を経営していくものです。
我々司法書士も、基本的には個人事業主です(大規模な司法書士事務所は、「司法書士法人」という法人を作っていることもありますが、その場合は除きます)。
すなわち、事業主が自ら資金を出し(金融機関等から借りる場合も含む)、自らの経営判断に基づいて企業(八百屋とか魚屋とか司法書士事務所とか)を運営していくものです。

企業の規模を少し大きくしようとすれば、複数人で集まって企業を共同経営する必要が出てくることもあります。
その場合、民法でいうところの組合契約が締結され、「組合」という団体が形成されることになりますが、これは、あくまでも集まった「個人」レベルで企業を経営するものです。
司法書士でも「共同事務所」という形で、複数の司法書士が一緒になって事務所を運営していることがあります(そういう事務所は、「○○司法書士共同事務所」「○○司法書士合同事務所」とか名乗っていることが多いです)。

さて、さらに規模を大きくしたり資金を広く集めたりしたい場合、どんどん仲間を増やしていくと、「個人の集まり」のまま経営を行うといろいろ不都合が出てきます(会計の問題、信用の問題、意思決定の問題などなど)。
そこで、「会社」という仕組みが用いられることになります。

「会社」はそれ自体が法人格を有しているので、「会社」となった企業においては、会社を作った個人ではなく会社自体が事業主体となります。
事業を始めたい(あるいは、既に始めているが、企業を法人化したい)人は、会社に出資して会社の構成員(=社員。社員の意味についてはこちらの記事参照)となり、業務執行権を有する人間が会社の経営を行うという形をとるのです。
つまり、「個人の集まり」と違い、会社の構成員(出資者であり会社の“所有者”)の全員が経営者(業務を執行する者)でなくてもよいわけです。

会社の中でも、持分会社(合名会社・合資会社合同会社)については、構成員(社員)全員が業務執行権を有するのが原則ですが、定款で定めることにより、業務執行社員を選ぶことができます。
残りの社員は、基本的には出資をして、会社に利益が出たら配当を得るだけです。

この「出資者=構成員(=所有者)」と「経営者」を区別する仕組みを徹底したのが、「株式会社」という会社形態です。

株式会社の構成員(社員)は、特に「株主」といいますが、株主は会社の構成員であり出資者ですが、業務執行権はありません。
株主は、株主総会で会社の業務を執行する「取締役」等の役員を選任し、会社の経営は取締役に全て委任します。
また、取締役は、株主でなくても構わず、外部の経営能力の高い人間に任せることも可能です。

このように、株式会社というのは、構成員(会社の所有者)と会社の経営者が完全に分離しています。
これを「所有と経営の分離」の原則といいます。

株主は、基本的には、出資をして基本的な枠組みを決めさえすれば、あとの細かい経営についていちいち考える必要がありません。
したがって、金を持っているけど経営に関与したくない(する暇もない)ような人からも、広く資金を集めることができるのです。
株式は原則として自由に譲渡できるので、株式を他人に売ってしまえば、投下資本を回収し、会社の構成員から離脱することもできます。
また、経営に適した1人又は数人の取締役を選び、少数精鋭の取締役に経営を全て任せることでことによって、経営効率も上がります。

いちおう、これが株式会社の理念型なのですが、実際には、「一人会社」といって、自分が出資して株主になって自分が代表取締役になるような零細企業が大量に存在します。
日本では、所有と経営が分離していない株式会社がほとんどです。
比較法的には、そういった形態は株式会社とは別の会社形態が使われることも少なくありません。


さて、そんな株式会社の本質と現状を前提に、NEET株式会社を見てみましょう。
おそらく、300人が発起人となり、300人が株主となり、そして300人が取締役になるのでしょう。
「広く資金を集めるとともに、少数の経営者で効率的な経営を行う」という株式会社の理念とは、およそかけ離れていますね。
実際に、集まった取締役候補者(ニート)の中で、既にやる気のある人とない人が出てきているようです。
ここで、やる気のない人には経営から退いてもらって、「出資だけしてくれたらいいよ」というのが株式会社のメリットなのですが、そういう人も取締役(経営側)に引き入れるというのがNEET株式会社。
もはや、株式会社となる意味が全くないわけです。


結論。
やっぱり「話題作り」以外にいいことは何もない。以上。


とまあ、理屈的にはそういうわけなんですけど、前回も言いましたとおり、この企画は事業が目的じゃなくて、取締役になって社会に出ること自体が目的みたいなわけで、もはや何でもいいのです。たぶん。

では、今日はこの辺で。

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