2013年8月21日水曜日

罪刑法定主義の派生原理その2「遡及処罰の禁止」

司法書士の岡川です。

刑法の大原則である「罪刑法定主義」の2つめの派生原理は、「遡及処罰の禁止」です。
「事後法の禁止」とか「刑罰法規不遡及」の原則と呼ばれることもあります。
これは、「犯罪と刑罰は、予め(成文の)法律によって定めておかなければならない」という罪刑法定主義の原則のうち、「予め」の部分をいう原則です。

例えば、ある行為が行われた後に、その行為を犯罪とする法律が成立したとします。
「もう新しい法律が施行されがのだから」という理由で、その法律に従って法律制定前にその行為をした人物を処罰することができるでしょうか。

罪刑法定主義に関して、民主主義の要請という面だけを見れば、事前であれ事後であれ、犯罪と刑罰を法律で定めさえすれば足りるとも考えれます。
しかし、罪刑法定主義は、自由主義の要請という面をみれば、何が犯罪であるかが事前に分かっていて初めて、人々の自由が保障されるといえます。
また、理論的に、罪刑法定主義は一般予防思想に基づくと考えた場合、事前に禁止された行為が国民に提示されていなければ、何ら犯罪抑止効果がありません。
したがって、ある行為を犯罪とする法律が成立したとしても、法律が成立する前にされた行為についてまで遡及して(遡って)適用し、処罰してはならない、というのが「遡及処罰の禁止」の原則です。
日本国憲法39条に、「何人も、実行の時に適法であった行為・・・については、刑事上の責任を問はれない」と明文で規定されています。

遡及処罰の禁止は、新しい犯罪類型を創設する場合はもちろん、もともと犯罪類型は存在していた場合であっても、行為時の法律で定められていた刑より重い刑で処罰してはいけない、という内容も含みます。
つまり、法改正によって、犯罪行為時より法定刑が重くなったとしても、犯罪行為時の法定刑に従って処罰しなければなりません。

「法の不遡及」という原則は、民法を始めとする私法分野等、他の法分野においても原則として妥当するのですが、例外なく厳格に遡及が禁じられているというのが刑法の特徴のひとつです。

今日もまた長くなったので、続きはまた次回。

では、今日はこの辺で。

罪刑法定主義シリーズ
1.罪刑法定主義
2.罪刑法定主義の派生原理その1「法律主義」
3.罪刑法定主義の派生原理その2「遡及処罰の禁止」 ← いまここ
4.罪刑法定主義の派生原理その3「類推解釈の禁止」
5.罪刑法定主義の派生原理その4「絶対的不確定刑の禁止」
6.罪刑法定主義の派生原理その5「明確性の原則」

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