司法書士の岡川です。
約束は守らなければいけません。
これは、社会の常識です。
法的な拘束力を有する約束のことを「契約」といいますが、契約も有効に成立した以上は、守らなければなりません。
約束を守らなければ、民法415条に基づき損害賠償責任が生じることもありますし、賠償金を支払わなければ、国家権力を使って強制的に支払わせる(つまり強制執行する)ことも可能です。
もっとも、どんな内容の契約であっても、契約書さえ作ってしまえば必ず守らなければならないのか、というと、もちろんそんなことはなく、もし何らかの瑕疵(欠陥)があって、その契約は有効でないということになれば、約束を破ってもよいということになります。
契約関係を規律する一般法は民法ですが、民法には、契約が無効になる場合や、取り消すことができる場合も規定されています。
逆にいえば、その契約に、民法(やその特別法等)に定められているような問題(欠陥)がなければ、どんなに嫌な内容の契約であったとしても、「契約を締結した以上は誠実に履行しなければならない」ということになりますね。
ところで、女優の土屋アンナさんが、とある舞台の稽古を欠席し、結果的にその舞台の開催ができなくなったという事件がありました。
そこで、舞台の主催者側が、土屋さんを訴え、損害賠償を請求しています。
土屋さん側は、その舞台が原作者の意向に沿わないものであったため、そのような舞台には出られない、として稽古を欠席したのだと主張しています。
他方、主催者側は、原作者の承諾はとっていたと、主張が真っ向から対立しています。
契約が成立したにもかかわらず、土屋さんは勝手に稽古を休んだわけですが、基本的には、そういう勝手は許されません。
契約は、原則として守らなければならないものだからです。
となれば、原告である主催者側は、訴える段階では「稽古に出る」という内容の契約が成立したことを主張立証すれば足ります。
それ以上に、「稽古に出なくてはならない根拠」について理屈をこねて説明する必要はありません。
これに対し、土屋さんが稽古を休んだのには相応の理由(真偽は不明ですが)があるようです。
しかし、どんなに重大な理由があったとしても、法的に契約が有効なのであれば、契約に違背した責任は負わなければなりません。
したがって、今回土屋さんが稽古を休んだ理由が「成立した契約の有効性を否定するような理由」であることを証明しなければいけません。
つまり、契約が成立していることを前提に、「原作者の承諾がない」とか「承諾がないとなぜ稽古に出なくていいのか」とか、色々と主張立証しなければならないのは被告である土屋さん側なのです。
第一回口頭弁論期日において、裁判長は、土屋さん側に「稽古にでなくても約束違反にならないと判断できる法的根拠」を示すよう指示したそうです。
こういう指示を被告である土屋さん側にするのは、上記の対立構造からみれば当然のことです。
別に、現時点で裁判長が原告の主張を認めたわけでもなく、ただ「被告のターンになった」というだけの話です。
答弁書にその辺が完璧に書かれていて証拠もそろっていたら、わざわざ裁判長もそんな指示も出さなかったでしょう。
また、裁判長に指示を出されなくても、弁護士なら当然、第二回口頭弁論期日までに提出していたはずです(そういうものが用意できれば、の話ですが)。
たぶん、第一回期日には、主張も証拠も揃っていなかったんでしょうね。
さて、次回期日はどうなるか、芸能ニュース的には大注目なのでしょうけど、私はあんまり興味ないです。
では、今日はこの辺で。
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