司法書士の岡川です。
前回と前々回に続き、時効の話です。
このうち、刑法と刑事訴訟法に規定された刑事法上の時効(刑の時効と公訴時効)については、基本的には気を付けるのは検察官や警察官なので、一般の人が気を付けることはあまりありません。
被害届を早く出すとか、特に親告罪なら早く告訴するとか、そういう点で気を付けることはありますけど。
一般の人が注意すべきは、どちらかというと民法等に規定されている民事の時効(取得時効と消滅時効)です。
なので、主にこちらの制度について注意喚起です。
まず、取得時効。
取得時効は、長期間の占有者が権利を取得する反面として、元々の権利者が権利を失うことになります。
もちろん、占有者側が元々正当な権利者だという場合もあります(むしろ、そういう場合に真の権利者を保護するために存在する制度なのです)が、実際は占有者に何ら権利がないという場合もあります。
そんな場合であっても、長期間の占有によって、完全に正当な権利が付与されることになるのが取得時効の制度です。
もし自分が真の権利者である物を、他者に(正当な権原なく)占有されている場合、占有者に時効取得される前に、きちんと争っておく必要があります。
争わずに、他人が占有するのを放置していれば、「権利の上に眠る者」として保護されなくなります。
さらに、直接的に権利を失うのが消滅時効という制度です。
所有権だけは消滅時効にかかることはないのですが(民法167条)、それ以外の権利は、一定期間行使しなければ時効によって消滅してしまいます。
原則として、債権なら10年、それ以外の権利(所有権除く)なら20年です。
個別の権利については、もっと短い期間が規定されているもの(短期消滅時効)もありますので、中途半端な知識で「時効は10年」と思い込むのは危険です。
例えば、不法行為に基づく損害賠償請求権は、不法行為を知った時から3年で時効になってしまいます。
というわけで、支払期がきた債権など、いつでも請求できる状態になっているのに、「いつか請求しよう」と思って放置すると、忘れたころに時効によって消滅してしまう可能性があるので注意が必要です。
また、関連する手続きが進行中であったり関連する他の権利関係に争いがある場合であっても、それ以外の債権については、個別に時効期間が進行することもあります。
なので、安易に「こっちの手続きをやってるところだから、これが終わっときにまとめて請求しよう」と考えてはいけません。
借用書などの証拠があっても、時効期間が経過した瞬間、その「借用書」という書面は、ただの紙切れと化し、もはや裁判所も助けてくれません。
これは、たとえ裁判所の判決であっても同様です。
勝訴判決が確定し、「これで一安心」と思って10年間放っておいたら、やはりその判決書は、ただの紙切れと化します
もうメモ用紙にでも使うしかありません(判決書の紙は質があまりよくないので、残念ながらメモ用紙としても使いにくいです)。
なお、気を付けなければいけないのは、「定期的に請求書を送りつけていれば安心」かというとそうでもありません。
時効完成を妨げるための「請求」は、裁判所を通したものでなければなりません。
いくら個人的に請求書を出しても(たとえ内容証明であっても)、6か月以内に裁判上の手続きを取らなければ、時効は中断しません(民法153条)。
6か月だけ時間稼ぎができるというだけなのです。
その間に訴えを提起するとか、既に債務名義があるなら差押えをするとか、確実な証拠があるなら支払督促を申し立てるとか、何らかの強力な請求をして初めて時効が中断します。
時効を中断させるために、どのような手続きが適切かは、お近くの司法書士にご相談ください(宣伝)。
では、今日はこの辺で。
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