昨日は、成年後見制度を利用するには、審判の申立てをしなければならないこと、それから、申立人になれる人は、基本的には本人と四親等内の親族であることを書きました。
では、本人が「自分に後見開始の審判をしてほしい」という意思を裁判所に表明することができるだけの判断能力がなく、かつ、身寄りもない場合はどうするか、というのが今日のテーマです。
この場合、「誰も申立てしないから」ということで放置するわけにもいきません。
しかし、家庭裁判所としては、申立てがない以上は、放置する以外にありません。
そういう場合、民法では、本人と親族の他に、検察官が申立人になることができることになっています。
検察官というと、一般的には「犯罪者を起訴する人」というイメージが強いと思います。
実際に、検察官は、主に刑事手続において捜査から刑の執行まで携わっています。
もちろん、それも検察官の職務として重要な(中心的な)ものなのですが、検察官の仕事はそれだけれはありません。
例えば、身分関係が問題になる人事訴訟(例えば、婚姻無効訴訟など)において、被告とすべき相手が既に死亡していた場合などは、検察官を被告として訴えることになります。
別に、個人的に検察官に恨みはなくても、被告がいないと手続きが進められないので、公益を代表する者として検察官が被告になるわけです。
そして、後見等の開始や不在者財産管理人の選任など、一定の事件類型に関しては、民法において、検察官が申立人になれる旨が規定されています。
もっとも、実際には検察官が後見開始の申立てを行うことはほとんどありません。
全国合わせて、年に数件程度です(後見開始の申立て全体としては3万件以上ある中の数件です)。
では、親族がいなくても後見が開始するのは、年に数人だけなのか、というとそうでもありません。
民法に規定はありませんが、実は、「老人福祉法」「知的障害者福祉法」「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」において、それぞれ高齢者、知的障害者、精神障害者について、「市町村長」が後見等の開始の申立てを行うことができると規定されています。
これを「市町村長申立」といいます(例えば、市長が申し立てる場合は、「市長申立」ですね)。
この規定があるので、身寄りのない高齢者などに後見が必要となれば、検察官申立でなく、市町村長申立が利用されます。
検察官申立は、上記三法の適用がないが、判断能力の低下した方を保護する必要がある場合に利用されることになります。
昨日例に挙げた、「近所のおじいちゃんの財産管理が心配」といった相談が司法書士のもとに寄せられたら、申立書類を作成するのではなく、市町村長申立てが可能かどうか検討する(そして、関係機関に繋ぐ)ということになります。
市町村長申立については、市町村によって運用が異なるので、直接市町村の担当課に問い合わせるか、地域包括支援センターや社会福祉協議会などに相談してみてください。
もちろん、最初の窓口として、地元の司法書士やリーガル・サポートに相談するのも手ですね(宣伝)。
では、今日はこの辺で。
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成年後見シリーズ
第1回「成年後見制度入門」
第2回「法定後見の類型」
第3回「任意後見契約について」
第4回「後見終了後の問題」
第5回「後見人には誰がなるか?」
第6回「成年後見制度を利用するには?」
番外編「成年後見の申立てにかかる費用」
番外編2「成年後見の申立てにかかる時間」
(このほかにも、成年後見についての記事はありますので、右上の検索窓で検索してみてください)
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