2014年3月19日水曜日

共有物分割請求のリスク(認知症の男性が自宅を競売にかけられた事件)

司法書士の岡川です。

昨日の続きです。

共有不動産の「持分だけ」を安く買い取った不動産会社はどうするか。
もちろん売るのですが、昨日も書いた通り、普通の人は誰も買ってくれないでしょう。

ただ、他の共有者にとっては、「不動産会社との共有物」になっている状態は望ましいものではありませんので、持分の買取りに応じる可能性があります。
かくして、不動産会社は、「共有者の一人から安く買って、他の共有者に高く売る」ことで、差額を儲けることができるわけです。


不動産会社が持分を買い取った場合に限らず、不動産の共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができます(民法256条)。
共有者には、共有物分割請求権があるので、請求された他の共有者は、協議に応じる義務があります。

共有物分割の方法にはいろいろあります。

例えば、それなりの広さがある共有名義の土地であれば、複数の土地に分割してしまい(分筆といいます)、分割後の土地を各々が単独所有する「現物分割」という方法が使えます。
さすがに、共有建物の場合は、物理的に真ん中で切断して「こっちからこっちが私の建物」というわけにはいきませんので、現物分割は現実的ではありません。

その他にも、共有物を売ってしまって、その代金を持分割合に応じて配分する(代金分割)や、1人の共有者が他の共有者に対価を支払って単独所有とする方(価格賠償)もあります。

協議が整えばいいのですが、この共有物分割請求権は、協議が整わなければ、裁判所に分割を請求することができるとされています(民法258条)。
つまり、「ずっと共有のままでいい」と考えて協議に応じなかったとしても、訴えられたら強制的に分割協議のテーブル(法廷)につかなければならないのです。
裁判になれば、最終的に話し合いがまとまらなければ裁判所の判断(判決)で決着します。
「じゃあ、もう売っちゃえ!」と裁判所が判断すれば、競売にかけられることもあるわけです。

つまり、共有というのは、家族のように利害が一致している場合はさほど問題となりませんが、そうでなければ、いつ分割を請求されるかわからない非常に不安定な状態にあるということです(一定期間分割を禁止する合意は可能ですが)。


昨日紹介した事件は、この共有物分割請求訴訟が提起されたものです。
その結果、競売によって分割(代金分割)することになり、男性は住居を失う(かもしれない)ことになりました。

こうなってしまったのは、離婚した元妻との共有関係を早々に解消できていなかったという点がまず第一の問題です。
不動産会社に持分を売られる前に、自分で買い取っておくべきだったのです。


もっとも、本件において重大な問題は、男性が判断を誤ったというより、認知症の男性が「適切な法的支援が受けていなかった」ことにあります。

今日も長くなったので、続きは次回
ちょっと引っ張りますが、次で最後です。

では、今日はこの辺で。

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