2014年5月16日金曜日

交通事故の損害賠償は誰が誰に請求するのか

司法書士の岡川です。

交通事故において、被害者に損害賠償請求権が発生し、それを加害者に請求できることは、今までに何度かご紹介してきました(→参照「交通事故による損害」)。
もっとも単純な事例においては、怪我をした人が怪我をさせた人に請求することになりますので、直観的にもわかり易いですね。

ただし、交通事故でも色々なパターンがあります。

尼崎の飲酒運転死亡事故 親族への賠償請求を棄却 地裁
2007年に尼崎市で3人が死亡した飲酒運転事故で、遺族3人が、ワゴン車を運転していた元建築業の男性(56)=危険運転致死罪で懲役23年の判決が確定、服役中=の親族に対し、約3600万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が15日、神戸地裁尼崎支部であり、大西忠重裁判長は原告の請求を棄却した。

この事件は、死亡した人の遺族が、死亡させた人の親族を訴えたものです。
結果的に請求は棄却されましたが、このように事故の直接の当事者(ぶつけた人とぶつかった人)以外が、事件の当事者になることがあります。


1.請求するのは誰か

人身事故によって死傷した人が請求権を有することは当然です。

物損事故の場合、必ずしも「車を運転していた人」が被害者とは限りません。
例えば、車を知人に貸していた時にぶつけられた場合、運転していた知人の治療費などはその知人が請求できますが、車の修理代などの物損の損害賠償請求権者は、基本的には自動車の所有者です。

では、例えば、被害者が死亡した場合、どうなるでしょうか。
交通事故で死亡すると、「生命」という、人にとって最大の利益を侵害されたわけですから、大きな損害を被っていることはいうまでもありません(具体的な損害費目とその算定については、後日ご紹介します)。
しかし、どう頑張っても、本人は請求しようがありません。
そこで、交通事故で亡くなった方の相続人が、損害賠償請求権を相続して加害者に請求することになります。
上記事件でも、遺族が原告となって訴訟提起していますね。

また、特に死亡案件では、相続人以外にも一定範囲の親族等には、独自の損害(慰謝料や逸失利益等)が認められることもあります。
親族が亡くなった場合に被る精神的苦痛などです。
その場合は、その人自身が被害者として、加害者に請求することができる場合もあります。

死亡した場合に限らず、交通事故で死傷した被害者が、未成年者や成年被後見人だった場合は、損害賠償を実際に請求するのは、それらの法定代理人である親権者や成年後見人になります。

また、少し複雑になりますが、被害者が加入している保険会社が相手方に請求することもあります(→参照「自転車事故で保険会社に損害賠償?」)。


2.請求されるのは誰か

民法の原則からいえば、基本的には、実際に車を運転して他人に損害を与えた人を訴えることが可能です。
もっとも、運転していたのが未成年者だったりすれば、その親権者を法定代理人として訴えることになります。

ただし、自賠法ではもっと責任の範囲が拡大されていまして、自賠法上の責任を負うのは、「自己のために自動車を運行の用に供する者」(運行供用者)です。
つまり、「運行供用者」に対して請求すればよいのです(運行供用者責任)。

この運行供用者というのは、車の運転者よりかなり広い概念です。
運転者の他に、例えば、仕事中に会社の車でぶつかってきた場合はその会社、他人に借りた車でぶつかってきた場合は車の持ち主などが、運行供用者になることがあります。

もっとも、盗んだバイクで走り出した15歳の加害者が事故を起こした場合、盗まれたバイクの持ち主は、バイクをきちんと管理をしていたのであれば、運行供用者にはなりません。


民法上も、直接の加害者以外に責任を負う者がいます。

事業の執行について他人に損害を与えた(要するに仕事中に事故を起こした)場合、使用者(事業主)が責任を負います(民法715条)。
この場合は、上記の通り運行供用者でもあります。

特殊な事例としては、10歳くらいの子供が車で事故を起こせば、その親権者が監督者義務者として責任を負います(民法714条)。
10歳の子が自動車を運転することはないにしても、自転車の場合はあり得ます。

また、危険な運転(飲酒運転)を止めるべき人が止めなかったために事故が起きたとしたら、止めなかった人も不法行為責任を負うことがあります。
前掲の裁判で、訴えられた側の親族というのは、これですね。


こんな感じで、誰が誰をどういう根拠で訴えるか、というのは、事案によって様々なのです。

では、今日はこの辺で。

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