2014年2月26日水曜日

治療関係費(交通事故の損害各論)

司法書士の岡川です。

交通事故の損害項目の各論に入りましょう。

交通事故のうち人身事故(被害者が死傷する事故)に遭ったとき、積極損害の中心的なものは治療関係費でしょう。

交通事故が原因の傷害の治療のために支払った実費は、必要かつ相当な範囲で全て損害と認められます。
治療費や入院費、診断書作成のための文書料などがこれに含まれます。


「怪我を(現代の医療で可能な限り)完全に治す」ために使う費用は、全て損害に含まれています。
医者の指示のもとに行われる常識的な範囲の「(医学的に)意味のある治療」であれば、それを遠慮する必要はありません。
「怪我を治すのに必要な治療」であれば、納得がいくまで受けて、それを加害者に賠償してもらう権利があるのです。

なので、交通事故に遭った場合、まずは「きちんと治す」ことに専念しましょう。
損害額を算定するのは、きちんと通院し終わってからの話です。

ただ、後の損害賠償請求を見据えて、通院する際の心構えや注意事項などがあるので、純粋に医者の指示だけに従っていればいいというわけではありません(損害賠償請求をする気がなく、ただ怪我の治療さえできればよい、というのであれば不要です)。

治療に関しては医者の指示に従えばいいのですが、同時に、事故初期の段階で司法書士や弁護士、行政書士等の法律実務家(特に交通事故を扱っている人)の助言を受けることも大切です。
実際に法律家の出番になるのは、治療が終わってからですが、実際問題として、初動でミス(という表現が正しいかはわかりませんが)をしたために、「本来であれば認められるべき損害が認められない」ということが少なくないのです。

また、当然のことですが、事故と関係のない治療(脚を轢かれたのに、虫歯の治療したり)や、過剰な治療は「必要かつ相当な実費」とは認められません。
交通事故の被害にあったのをいいことに、それに乗じて必要以上に治療費を浪費することは許されません。
そういうセコい考えを起こしても、結局自分が損するだけです。

「必要な治療」に要する費用を全額請求する権利はありますが、「必要以上の治療」に使った費用を相手に請求する権利は無いということです。


治療費は全額が損害になると書きましたが、症状固定以後の治療費は、原則として損害に含まれません(賠償されません)。

症状固定とは、「それ以上治療しても(現代の医学では)回復が見込めない」という時点をいいます。
ゆえに、それ以上治療を続けても意味がないので、(通院するのは被害者の自由ですが)その費用を加害者が賠償する義務を負わないことになります。

いつが「症状固定」になるのかは、しばしば争われる(それ以後の治療費が損害と認められないのですから、当然です)ので、詳しくはまたの機会に回します。



細かいところで、損害に含まれるかが問題になるものとしては、特別室に入院した場合の使用料等があります。
これは基本的には損害として認められませんが、それがどうしても治療のために必要であった場合(医者の指示があったときや、他に空室が無かった場合など)は、損害に含まれることもあります。

それから、整骨院などの費用は、厳密には医療行為ではないので「治療費」とはいえないのですが、特に医師の指示がある場合など、その症状に対して有効なものと認められる範囲では損害に含まれます。

場合によっては、単なるマッサージや温泉治療などの費用も損害に含まれるのですが、こういう微妙なものは、とにかく医師の指示を仰ぐことが賢明です。


というわけで、交通事故で怪我をしたら、決して遠慮したりせず、それでいて、セコいことを考えず、「必要かつ相当な治療」を受けるよう心がけましょう。


では、今日はこの辺で。


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交通事故の損害シリーズ
1.交通事故による損害
2.交通事故による損害の分類
3.交通事故の損害項目
4.治療関係費(交通事故の損害各論) ← いまここ
5.入通院の費用(交通事故の損害各論)
6.葬儀関係費(交通事故の損害各論)
7.休業損害(交通事故の損害各論)
8.交通事故の慰謝料(交通事故の損害各論)
9.逸失利益(交通事故の損害各論) 

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