2015年1月14日水曜日

控訴審や上告審の判決

司法書士の岡川です。

いつまで続くか司法(裁判)制度ネタ。
今日は、控訴審や上告審判決の話です。

第一審判決は、民事訴訟の場合、メインは請求認容(一部認容)判決か請求棄却判決です。
例えば「100万円返せ」という請求であれば、裁判所が「100万円返しなさい」と認めるのが認容判決、「返さなくてよい」というのが棄却判決です。
「50万円だけ返しなさい」という内容なら一部認容判決ですね。
この他、「訴え自体が適法でない」という場合もあり、そのときは訴え却下判決となります(棄却と却下は、法律用語としては似て非なるものなのです)。

刑事訴訟の場合、メインは有罪判決と無罪判決で、そのほかに免訴判決とか公訴棄却判決というのもあります。


では、このような判決に対して上訴したら、上訴審ではどのような判決が出るのでしょうか。

原判決を維持する場合は、上訴を棄却することになります。

控訴審では、第一審判決を維持するなら控訴棄却判決です(「公訴棄却」ではないので注意)。
これは民事も刑事も同じですが、民事訴訟では控訴が不適法な場合の控訴却下判決というのもあります。
上告審でも似たようなもので、控訴審判決を維持する場合は、上告棄却判決となります(不適法な場合、却下決定がなされることもあります)。

いずれも「棄却」とありますが、民事訴訟の第一審判決の「請求棄却」と違って、上訴を棄却するものです。
したがって、「控訴棄却判決」の内容が「請求認容」である場合もあるので少し注意が必要です(第一審の請求認容判決に対して被告が控訴し、その控訴が棄却されたら、結論としては請求認容です)。


逆に、原判決が不当であると判断された場合はちょっと複雑です。

まず、民事訴訟の控訴審で第一審判決が不当である場合、判決で原判決を取り消します。
取り消したあとは、原則として、そのままその控訴裁判所が新しい(変更された)判決を出します。
これを「自判」といいます。
場合によっては、第一審の審理が不十分であることもあるので、その場合は、新しい判決を出すのではなく、第一審に審理の場を戻して足りていない部分の審理をやり直させます。
これを「差戻し」といいます。

これに対して刑事訴訟の控訴審では、第一審判決を破棄します。
破棄した後は、原則として第一審に差し戻すことになりますが、既に十分な審理がなされている場合は、そのまま自判することもできます。


それから上告審ですが、民事訴訟でも刑事訴訟でも、控訴審判決が不当なら破棄します。
そして、控訴審判決を破棄した後は、原則として差し戻します。
上告審は法律審なので、法律問題に一定の判断をした後は、その解釈の下で事実審理を続ける必要があるからです。
その必要がなければ、例外的に自判することも可能です。


判決取消しも判決破棄も、どちらも原判決を覆すという意味では同じようなものですが、控訴審では、民事訴訟と刑事訴訟で用語が異なります。
これは、続審制である民事訴訟の控訴審が「取消し」で、事後審制である刑事訴訟の控訴審が「破棄」という使い分けのようです。
同じく事後審制である上告審では、どちらも「破棄」です。

そして、取消し(続審制)の場合は、自判が原則で、破棄の場合(事後審制)は、差戻しが原則。


よくニュースなどで「最高裁は、判決を破棄し、審理を大阪高等裁判所に差し戻した」と聞くことがあります。
「最高裁がそのまま最終判断しろよ!」とツッコむのはシロウトです。
「最高裁は自ら判断することから逃げた」とか批判するのもアマチュアです。

最高裁は、原判決を破棄しても原則として自判はしないものなのです。

よって、プロの法律マニアは、このニュースで「なるほど、事実審である高等裁判所に戻して、足りていない事実審理をやり直すんだな」と理解するのです。

では、今日はこの辺で。

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