2015年7月19日日曜日

善管注意義務

司法書士の岡川です。

私法上、ある行為をする際に求められる注意義務に反した場合、過失責任を負うことがあります。
注意義務違反で他人に損害を与えた場合、損害を賠償しなければなりません。

もっとも、行為の種類等によって、「どこまで注意すべきか」という、求められる注意義務の「程度」に違いが考えられます。

この程度の違いによって、法律(民法)でも2種類の「注意義務」が規定されています。

よく出てくるのが、「善良な管理者の注意」です。
これがいわゆる「善管注意義務」というやつです。

「善良な管理者の注意」ってどんな注意なのか、抽象的すぎて分かりにくいですが、取引通念上、客観的に要求される十分な注意をする義務、といったふうに説明されます。


例えば民法には、
  • 第297条 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。
  • 第400条 債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
  • 第644条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
といった規定があります。
このほか、質権者が目的物を占有する場合には第297条が準用されています(350条)。

また、委任契約の受任者の注意義務を規定した644条は、あらゆるところで準用されています(671条、852条、869条、876条の3、876条の5、876条の8、876条の10、1012条などなど)。
これらはいずれも、後見人(869条)や遺言執行者(1012条)など、他人の財産の管理をする場合であり、このような場合は基本的に善管注意義務を負っていることが分かります。

不在者財産管理人の注意義務については、民法上規定されていませんが、家事事件手続法146条によって644条が準用されていますので、善管注意義務を負います。

また、会社の役員(取締役とか監査役とか)と会社の関係は、委任の規定に従いますので(会社法330条)、役員は会社に対して善管注意義務を負うことになります。


他人の財産を管理するときは、基本的に自分の物を管理する以上に十分な注意を払って管理しなければならない義務を負っているということです。

自分の通帳は、家の引き出しの中に入れていてもいいけど、後見人として被後見人の通帳を預かるときは、金庫の中に入れておかないとだめ・・・みたいなイメージ(あくまでイメージです)で、自分の物以上に慎重に管理しなければ義務違反となるわけです。

他方、善管注意義務より一段階、その程度が低い注意義務として「自己の財産に対するのと同一の注意」というものがあります。
条文によって「自己のためにするのと同一の注意」とか「固有財産におけるのと同一の注意」と、微妙に文言が異なりますが、どれも中身は同じです。
これは「自財注意義務」のような省略はしません。

無償寄託契約における受寄者(659条)、親権者による子の財産の管理(827条)、相続人による相続財産の管理(918条)、限定承認者や相続放棄者による相続財産の管理(926条、940条)などでは、自分の財産ではないけども、自分の財産と同程度の注意を払って管理すれば足りることになっています。


ということで、他人の物を預かる場合、あるいは、他人のために何かをする(という契約がある)場合、自分の物を管理する場合以上に慎重に行動するよう心がけましょう。

では、今日はこの辺で。

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