2015年8月14日金曜日

条件と期限

司法書士の岡川です。

法律行為(典型的には契約)は、成立したからといって、必ずしも直ちにその効果が生じるわけではありません。
また逆に成立したからといって、永久にその効果が生じ続けるとも限りません。

契約の効力が発生する時期を遅らせたり、発生した効力を事後的に消滅させるとき、その「時期」を「条件」や「期限」といいます。
条件や期限は、法律行為の効力発生要件ともいわれます。

さて、条件と期限は、似ているようで異なるものです。
その違いは、「発生することが確実かどうか」にあります。

条件:将来発生するか否かが不確実な事実にかからせるもの
期限:将来発生することが確実な事実にかからせるもの

例えば、私と知人Aが、「私が高槻市長になった時に100万円あげる」という贈与契約をしたとします。
「私が高槻市長になる」というのは不確実な事実ですから、これは条件です。

他方で、私と知人Bが、「9月1日になったら100万円あげる」という贈与契約をしたとします。
「9月1日になる」ことは確実な事実ですので、これは期限だということになります。


条件も期限も更にもう少し細かく分類することができます。

まず条件については、停止条件と解除条件に分けられます。

停止条件は、契約の効力の発生に関する条件です。
「高槻市長になったら100万円あげる」というのは、100万円の贈与契約に停止条件を付けたことになりますね。
「効力発生が条件成就まで停止する」のであって、「発生している効力が停止する」わけではないので注意。

逆に、契約の効力の消滅に関する条件を解除条件といいます。
例えば、私と知人Cが、「Cに毎月100万円あげるが、私が茨木市長になったらやめる」という契約をしたとします。
この場合は、「私が茨木市長になる」ことは解除条件ということになります。

解除条件は「契約を解除するための条件」ではありません。
その事実の到来で当然に契約の効力が消滅する条件をいいます。


期限については、色々細かく分けることができます。

まず、確定期限と不確定期限。

「発生することも発生する時期も確定している事実」が確定期限で、「発生するのは確実だけど、それがいつになるのかわからない」のは不確定期限です。
「9月1日」というのは確定期限ですが、「私が死んだとき」というのは不確定期限です。

それから、期限も条件と同じように、効力が発生する時期なのか消滅する時期なのかで「始期」と「終期」に分かれます。
また、効力の発生時期を定めた「停止期限」と、履行請求できる時期を定めた「履行期限」に分けることもできます。



実際の契約では、条件や期限が付されていることは多々ありますし、契約以外の法律行為において、効力発生時期をずらすことはよく行われています。

実は、それが条件なのか期限なのか解釈に争いがある場面も少なくありません。
この違いは、請求する側とされる側のどちらに立証責任があるのか等、実務上は重要な意味を持っていたりします。


例えば、家賃を滞納している賃借人に対して、「8月31日までに1000万円支払ってください。期限までに支払がなければ賃貸借契約を解除します」という解除通知を出した場合、これは、「解除」という法律行為に条件が付いているのでしょうか?
それとも期限が付いているのでしょうか?


文言を素直に読めば、「『支払がないこと』を停止条件とする解除の意思表示」のようにも思えます。
ただそう考えると、「支払がないこと」を解除する側が立証しないといけないという不都合が生じます。

請求する側がそんな不合理な意思表示をするわけがないので、一般的には、「8月31日の経過をもって解除する。ただし、支払があったときはこの限りでない」というふうに、「8月31日」という期限(停止期限)が付されていると考えられています。

となると、請求される側で、「期限までに支払った」ことを証明しない限り、8月31日経過をもって契約が解除される(契約の解除の効果が生じる)ことになります。
というわけで、家賃を滞納している人は、契約を解除されたくなければ、全額支払ってから自ら支払ったことを証明しなければなりません。


解除と期限という概念は、実は法学部ではけっこう初めのほうに習うのですが、結構ややこしいのです

では、今日はこの辺で。

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