2015年10月9日金曜日

官吏と公吏

司法書士の岡川です。

前回書かなかった、ちょっとマニアックなお話。

公務員」という言葉は、明治40年に成立した現行刑法で初めて登場したようです。

しかし当然ながら、それより前から日本にも近代的な法律が存在したわけです。
そこではどういう規定になっていたか、例えば、現行刑法以前に施行されていた旧刑法では、公務員に関する犯罪はどうなっていたか、というのが気になるところです。
みなさん気になりますよね。
気になったということにしましょう。


というわけで、旧刑法を紐解いてみると、旧刑法139条は今でいうところの公務執行妨害罪なわけですが、ここに「官吏」という単語が出てきます。
「官吏」というのは、古めかしい言葉ですが、「官」は国のことで「吏」は役人のことですから、これが今の国家公務員ですね。

実はこの「官吏」という単語は、現行法でも残っています。
主に制定年の古い法律に出てきます。

例えば、日本国憲法にも「法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること」が内閣の事務として規定されています。


他方で、さらにあまり見かけない単語ですが、「公吏」という言葉もあります。
「公」は、国や地方公共団体など、「おおやけ」のすべてを指すこともありますが、そこから国を抜いたものを指すこともあります。
ということは、公吏とは、今でいう地方公務員のことですね。

こちらも、古い法律を中心に、現行法に残っていまして、刑事訴訟法230条には、「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない」というふうに、公務員の告発義務を規定しています。

「官吏又は公吏」で、公務員全体ということになりますね。



ところが、旧刑法では、「官吏」は出てきますが「公吏」は出てきません。
規定上「官吏」となっているからには、地方公務員には、刑罰規定が及ばないことになります(罪刑法定主義)。


もっとも、昔の地方公務員はフリーダムだったのかというとそんなわけはなくて、明治23年に「公署、公吏並公署ノ印、文書及免状鑑札ニ関スル件」という法律が制定されました。

一文のみの短い法律なのですが、ここに「官吏ニ關スル條項ハ公吏ニ適用」すると規定されています。
(他には、官署に関する規定は公署にも規定するということが規定されています)

つまり、明治23年以降は、旧刑法に「官吏」とある犯罪については、公務員全体に適用されたということです。


明治15年から23年まではどうだったんでしょうかね?


最近の法律では、「公務員」というが使われるようになっていますので、そのうち官吏とか公吏といった単語は条文から消えていくことになると思います。
ただ、日本国憲法の「官吏」が消えるには憲法改正が必要ですから、ずっと残るかもしれませんね。


では、今日はこの辺で。

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