2016年1月13日水曜日

支払督促や少額訴訟を利用した詐欺

司法書士の岡川です

とある人のtwitterでのつぶやきが、某まとめサイトで紹介されていました。

最近は詐欺の手口が進化していて、支払督促や少額訴訟制度を利用したものが出てきたとか。

…といっても、これ実は10年以上前から使われている古典的な手口でして、特に新しいものでもありません。
架空請求が流行りだしてから暫くした頃に出現したように記憶しています。
法務省のサイトで「最近こんな相談が増えています」みたいな紹介がされていますが、このページ自体がもう7年とか8年とか前に作られています。

なんで今になって急に注目されたのかわかりませんが、たぶん今でも同じ手口は存在していると思いますので、知らなかった皆さん、注意してください。

というか、古典的過ぎて、みんな忘れてしまったのかもしれませんね。
いい機会なので、おさらいしておきましょう。


そもそもこの手口、何も複雑なことはありません。

まず、「少額訴訟」を利用する方法ですが、単純に「証拠はないけど訴える」というだけの方法です。

普通は、証拠がなければ反論されれば終了なのですが、相手が反論しなければ訴えた側の言い分が通ります。
これは要するに、「訴えを提起されたのに無視したら欠席判決で負ける」という、それだけの話です(参照→「裁判に欠席したらどうなる? 」)。
「少額訴訟」とありますが、この件に関しては少額訴訟だろうが通常訴訟だろうが同じことでして、とにかく訴えられた以上は受けて立って正面から反論しなければ不利益を被ります。

「支払督促」のほうは、訴訟よりもっと簡易な方法で債務名義強制執行が可能になるお墨付き)が取得できる方法で、特に証拠もなく申し立てることができるので、悪用も簡単です。

もっとも、申し立てるのが簡単なら、これを退けるのも簡単でして、異議を出せばいいのです。
支払督促を受け取ってから「仮執行宣言」というものが出される前(2週間以上あります)に、裁判所に督促異議を出せば、支払督促手続はそのまま失効し、訴訟手続に移行します。
あとは、正式に裁判で決着付けましょうということになります。
正式に裁判ということになれば、そもそも詐欺師の方にまともな証拠はない(はず)ですから、きちんと反論すれば終了です。

裁判所を使うということで、何やら大掛かりで複雑な手法かと思うかもしれませんが、仕組みさえわかれば、怖くはありません。
ただ、対処するのが面倒ではあります。


ついでなので、某まとめサイトに載ってた疑問点なんかに、答えておきましょう。

>何で公文書偽造の罪にならんのか不思議
誰も何も「偽造」していないからですね。
「原告が訴えを提起し、被告がそれを無視したので、欠席判決で原告が勝った」と書けば、どこにも「偽造」がないことがわかります。


>行政の怠慢以外何物でもなくない?

行政は出てきません。


>結局、どうすればよろしいのでしょうか?

粛々と反論しましょう。
少額訴訟なら答弁書を提出し、支払督促なら督促異議の申立をしましょう。
やり方がわからなければ、お近くの司法書士に相談だ!


>なんで嘘の情報に公文書が発行されの?(原文ママ)

手続きの中で誰も「嘘だ」と主張していないからです。


>裁判所!しっかりしろ!

裁判所は、基本的にどちらの味方もしません。
裁判所に提出された資料に基づいて判断するだけの機関です。


>本物かどうかってどうやって見分けんの?

本物は、「特別送達」という郵便で送られてきます。
書留みたいなもので、受け取るときにサインが必要です。
勝手にポイっと郵便受けに入っていたら、それは偽物です。
それでも不安な時は、お近くの司法書士に相談だ!


>逆手にとっても何もこんなんまかり通る制度おかしいわな。

そうはいいましても、そもそも裁判というのがそういうもの(主張したほうが勝つ、主張しなかったほうが負ける)でして…。


>これ裁判所側でなんとかしないのかよ

そうはいいましても、請求された側が反論しなければ、裁判所が嘘か本当かを見分けることはできないわけでして…。
たとえ嘘だと思っても、被告側から「棄却してください」と言われてもないのに裁判所が勝手に請求を棄却するのは、いわば越権行為になります。


>こういうのを無視しても大丈夫な法律とかできんとかね…?

そんな法律ができると、正当な権利者が正当に訴えを起こしても、被告に徹底的に無視されると、いつまでたっても勝訴できないということになってしまいます。


>知らんうちにピザ屋のチラシと一緒に捨ててそう

郵便のおじさんから手渡しで受け取った書類と、ポストに勝手に入っているピザ屋のチラシは、別々に保管しよう!


>これ逆に通報できんのかね

できます。
詐欺は詐欺なので。


>それにしてもコレって訴えた側を詐欺だと見抜けない&疑わない司法も大概だよなぁ…

あくまで裁判所は「中立」の機関なので、たとえ見抜いても、疑っても、それだけで退けたりしないものです。
退けてほしければ、「退けてくれ」とひとこと反論する(上記の、答弁書なり督促異議なり)ことが重要です。
裁判所が弱い者の味方だと思っていると、色々と痛い目を見ます。


>で?その代金を支払うことを無視したらどうなんの?

強制執行される可能性が高まります。


支払督促でも少額訴訟でも、対処すること自体はそれほど難しくありません。
一番悪いのは無視することです。

面倒でも、必ず適切に対処しましょう。


あと、これとは別に、はがきで「何かそれっぽいもの」が届いたら、それは詐欺の可能性が高いですので、注意しましょう(参照→「はがきで来る法律(っぽい)文書は全部嘘」)。


では、今日はこの辺で。

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