2020年7月31日金曜日

給与ファクタリングは何がどう違法か

司法書士の岡川です。

給与ファクタリング(給料ファクタリング)業者が大阪府警に初摘発されたというニュースがありました。

「給料ファクタリング」初摘発 業者の男女4人逮捕(日本経済新聞)

「給料を支給日前に受け取れる」などとうたい無登録で金を貸し付けたとして、大阪府警生活経済課は29日、コンサルタント会社「SONマネジメント」(東京都)の社員、岩田俊一容疑者(29)=山形市=ら男女4人を貸金業法違反(無登録営業)の疑いで逮捕した。府警によると「給料ファクタリング」と呼ばれる新たな手口で、摘発は全国初。

給与ファクタリングというのは、「給料を買い取る」という形で「給料日前にお金が受け取れる」(というふうに表向きは宣伝されている)サービスです。
少し前から流行りだしたサービスですが、最近特にコロナの影響もあって、生活に困窮した人を中心に利用者が増えています。

しかし、このサービスは以前から違法性が指摘されており、今回、ついに大阪府警は犯罪だと認定し、業者の人間を逮捕しました。


では、何がどう違法なのか。


そもそも「ファクタリング」(factoring)というのは、一般的には売掛金等の債権をファクタリング業者に売って資金調達する手法をいい、それ自体が違法な手法ではありません。

売る側にとっては、売掛金(売買代金の支払い日が翌月とかで、すぐに請求できない)等の債権を売却(債権譲渡)することで、資金繰りに困ったときに、持っている債権をすぐに現金化できるというメリットがあります。

当然ながら、業者は債権額より割り引いた金額で買いとる(例えば100万円の売掛債権を90万円で買い取る)ので、買い取った債権を行使して全額回収できれば、その差額が利益となります。


このファクタリングの仕組みで、売買の対象となる債権が売掛金ではなく給与債権になった(かのような体裁がとられている)のが、給与ファクタリングです。

つまり、(業者の表向きの説明でいうと)サラリーマンの給与債権(権利はあるけど給料日じゃないと支払ってもらえない)を、給料日前に業者が買い取る。
給料日前に現金がほしいサラリーマンにとって、即日現金が手に入るメリットがあるし、他方、業者は、給料額より安く買い取るので、実際に給料日になって回収できたら買取額と給料額との差額が利益になる。

…という(ことになっている)サービスですが、実際はそんな単純な話じゃないわけですね。



まず、労働者の給料(賃金)というのは、「通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と法律で決められています(労働基準法24条)。

私的自治の原則からすれば、自分の債権は自分で自由に処分できるのが基本ですが、給料は例外です。
給料というのは、労働者にとって生活の基盤ですから、確実に労働者が受け取れるよう、労働者以外の者に支払われることが特に法律で禁じられているのです。


…と、いうことは、給与ファクタリング業者は、買い取った給与債権を行使して労働者の勤め先の会社から回収することはできないということです。
何故なら、勤め先の会社としては、どこぞの業者が「給与債権はうちが買い取った」と言ってきたとしても、その給料は、直接従業員に支払わなければ法律違反になるからです。

なので、このままだと買い取った側は大損ですから、給与ファクタリングは、実際には「給与債権を売った客に給与債権を買い戻させる」という仕組みになっています。

例えば、業者は、給料日前に10万円の給与債権を5万円で客から買い取ります。
そして、給料日になれば、客がその10万円の給与債権を業者から10万円で買い戻すという契約になっています。

これなら、実際に勤め先の会社から給料を受け取るのは従業員である客だから労働基準法上の問題は生じません。
業者は、5万円で買い取った給与債権を10万円で(元の客に)売りつけることができるので、5万円の儲けです。


しかし、「買取り」と「買戻し」という“建前”にはなっていますが、買い取っても行使できない給与債権が移転したかと思えば元に戻っている。

ということは結局のところ「給料」とか、この仕組みの中では実質的には全く関係ないんですよね。

関係ない「給料」のことは脇に置いて、実際のお金の流れを見れば、「後日10万円を支払う約束で5万円を交付してもらい、実際に支払期日(給料日)が来れば10万円を支払う」という契約に過ぎません。


つまり、「金を貸して返してるだけ」ですね。

実質的には「利息付きの金銭消費貸借契約」そのものです。


ところが、業者は「借金ではない」ということを、やたらと強調します。

借金じゃないから「信用情報に載らない」「載っていても利用できる」と、借金じゃないことが良いことであるかのように宣伝しています。


しかし、本当の狙いは、借金ではないという建前により、出資法や利息制限法の上限金利を上回る手数料(という名の実質的には利息)を設定しているところにあります。

実際に、給与ファクタリング業者は、給料を半額で買い取ったりするのです。
給料を半額で買い取るということは、客は、受け取った額の倍額で買い戻さないといけないことを意味します。

簡単にいうと、5万円借りたら1か月後に5万円の利息がついて合計10万円を返すことになる。
これ、1か月で100%の利息が付いてるわけですから、年利換算したら1200%になりますね。

ひとむかし前の漫画なんかで「トイチ」というギョーカイ用語が出てきますが、これは「10日で1割」という違法な利息を意味します。
トイチは、暴利の代名詞みたいに言われますけど(いや、実際暴利なんですが)、年利換算したら365%です。
それをはるかに上回ります。


利息制限法の上限は20%ですから、これが貸金だということになれば、当然こんな1200%(合法的な上限の60倍!)とかいう高利は違法です。
だから、「借金ではない」と言い張るわけです。


しかし、金融庁は、給与ファクタリング業は貸金業だという見解を示しました。

給与の買取りをうたった違法なヤミ金融にご注意ください!

また、裁判所においても、給与ファクタリングが実質的には貸金業法や出資法にいう「貸付け」にあたると認定した裁判例が既に複数出ています。


給与ファクタリングが「貸付け」であり、その業務は貸金業だということになるとどうなるか。

貸金業を営むには、貸金業登録をしないといけません。
給与ファクタリング業者は、貸金業登録をしていないことが一般的ですから、これらは全部無登録の貸金業、要するに「ヤミ金」だということになります。

当然、上記のような金利での貸付けも、利息制限法どころか出資法や貸金業法に違反した暴利行為だということになります。
あまりの暴利は、公序良俗に反して無効になり、不法原因給付として、その元本すら返還する義務を負わないというのが判例です。

つまり、法的には、給与ファクタリング業者は、普通のヤミ金と全く一緒の扱いということです。


これは民事の話ですが、刑事の話でも、貸金業法違反(無登録営業)は犯罪ですから、今回の逮捕に至ったということですね。
出資法違反も犯罪ですから、こちらもでも再逮捕されるかもしれません。


というわけで、お金に困っても、給与ファクタリングを利用しないようにしましょう。

どんなにしっかりしたホームページがあっても、きれいごとが書かれていても、それは「ヤミ金」です。


仮に、貸金業登録をしていて、かつ、10万円の給料を9万9500円くらいで買い取ってくれる(9万9500円借りて1か月後に10万円返す)という良心的な業者があれば話は少し変わりますが、そうでなければヤミ金に手を出すのと一緒です。


本当に生活に困ったら、市役所とかで相談するとか、色々方法があります。
債務整理して生活再建をするなら、お近くの司法書士や弁護士にご相談ください。

たとえば高槻市役所には、生活に困った人の相談に応じる「くらしごとセンター」があります。

そういえば、高槻市役所の近くには、岡川総合法務事務所っていう債務整理の相談にも応じてくれる司法書士の事務所もありましたね。

岡川総合法務事務所のお問い合わせはこちら

では、今日はこの辺で。

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