2013年9月20日金曜日

公示の原則

公示の原則

司法書士の岡川です。

法学部の民法の授業では、必ず出てくる話ですが、「登記の効力」はどういうものか、という論点があります。

少し専門的になるかもしれませんが、あなたがもし不動産を持っているなら、あるいは、不動産を購入しようとしているなら、知っていて損はない話です。
また、不動産を持っていなくても、民法が試験科目になっている試験を受けようとしているなら、知っていなければ話にならないくらい大事なことなので、再確認しておきましょう。


前回までに書いた通り、登記というのは、権利関係を公示するものです。

では、何のために公示するのでしょうか?
ここでは、不動産登記、すなわち不動産の権利関係の公示制度について書きます。


単純に、「不動産を買っても私の名義に書き換えないと、私の物にならないから」と考えがちですが、実は、そういうわけではありません。
不動産の「所有権の移転」と、「登記の移転(名義書き換え)」は全く別なので、もしあなたが契約(当事者間の合意)により不動産を買ったなら、登記をしなくても(名義を書き換えなくても)その不動産はあなたの物です。
したがって、例えば、あなたが買った不動産に、売主がいつまでも居座り続けて出ていかないなら、あなたは所有権者として売主を追い出すことも可能です。

日本では、不動産の売買(贈与でも同じ)の「効力が発生するため」には、契約さえすればそれで十分であり、別に登記をする必要はないのです。
この点、ドイツ等では登記が不動産売買の効力要件(つまり、登記しなければ売買契約が効力を生じない)となっているのとは異なります。

そういう制度なので、「不動産の所有者」というのは「不動産の名義人」とは必ずしも一致していなくても構いませんし、一致していないことも珍しくありません。


「じゃあ、何か?登記は、司法書士が趣味でやってんのか?」というと、もちろん、登記はただの飾りでも司法書士の趣味でもありません。


確かに、日本では、登記をしなくても不動産の所有権は問題なく移転します。
契約書があれば、そのことを証明することもできます。

しかし、登記をしなければ、その所有権を「第三者に対して主張」することができません。
民法177条は、不動産の物権変動について、「登記によって公示がされなければ、第三者に権利を主張できない」という形(対抗要件主義)で、権利者に対して公示を要求しています。

つまり、売買契約の当事者同士(売主と買主)では、登記なんか必要ないのですが、「第三者」に対して、「私が買いましたー。私が今の所有者ですよー」と言いたければ、あなたの名前を登記簿に載せて、世間一般に知らしめる(公示する)ことが必要なのです。

登記をドイツのように効力要件としたり、日本のように第三者対抗要件としたり、法制度としては色々ありますが、いずれにせよ権利移転を目に見える形(登記)で公示しなければならない(公示しないと何らかの不利益がある)とされています。

このように、自己の権利を完全に主張するために公示を要求する原則を、「公示の原則」といいます。


例えば、売主があなたに土地を売り、あなたが「これでこの土地は私の物だ!」と油断しきっている間に、事情を知らない別の第三者にその土地を売る(これを「二重譲渡」といいます)ということも考えられます。

売主との関係では、あなたはもちろん「何してくれとんねん!」と文句を言う(だけでなく、損害賠償請求をする)ことはできますが、だからと言って、第三者に「あ、その土地私が先に買った物ですから、返してね」と言っても通用しません。
第三者は、あなたに返す必要はないのです。
この場合、さっさと登記を移転しなかったあなたが悪い(もちろん、売主はもっと悪い)。


そういうわけなので、日本で不動産の売買が行われるときは、ほぼ確実に司法書士が取引現場に立ち会います。
司法書士は、当事者が持っている登記に必要な書類を全部預かり、契約の成立と売買代金の支払いを確認したら、その足で法務局(登記所)に向かって登記申請をする、という慣行ができています。

「契約が成立して、代金も支払われたけど、登記名義が移転していない」という状態にならないようにするわけですね。


我々司法書士は、あなたが全世界に向けて、「この土地は私の土地だー!」と声高らかに主張する(公示する)ための手続きを代理しております。
よろしくお願いします。


では、今日はこの辺で。

登記の基礎知識シリーズ
登記とは何か
登記はどこでするのか
登記簿には何が載っているか?
・公示の原則 ← いまここ
公信の原則
権利書の話
登記識別情報の話

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