司法書士の岡川です。
前回、公示の原則についてお話ししました。
今日は、それと似た「公信の原則」についてお話しします。
民法の初学者にとって「公示の原則と公信の原則の違いがわからない」ということもよくあるようですが、両者の「違い」というのは、それほど難しいことではありません。
名前は似ていても、内容は比べてみれば全然違います。
公示の原則とは「公示をしておかなければ、自分の権利を完全に主張することができない」という原則でした。
これを第三者視点でいえば、「公示のないところには、権利もないと考えられる」ということになります。
つまり、AからBへ権利が移転していても、登記がBに移転していなければ、第三者Cは「権利者がBという公示がされていないから、Bは権利者ではないんだな」と判断できるということになります。
そのためCは、その土地をAから買ったとしても、そのことで、Bから文句を言われることはありません(なぜなら、Bの権利は公示されていないから)。
公示の原則の下では、「公示をしなければ、権利を主張できない」というにすぎませんので、仮に、内容が虚偽の公示(例えば、勝手に他人の土地を自分名義にする)をしたところで、あなたはその土地を有効に売ることはできません。
これまた第三者視点でいえば、AからDへの権利移転がないのに、登記だけAからDに移転されていた場合(公示内容が虚偽)、その登記を信頼した第三者EがDから土地を購入したとしても、Cは正当な権利者になることはありません。
「公示がなければ権利を主張できない」けれども、それ以上に「公示があれば権利を主張できる」というものではないからです。
これに対し、「公信の原則」とは、「公示があれば、それを信頼して取引した人は、真の権利者と取引した場合と同じように保護する」という原則です。
つまり、公信の原則が採用された場合、上のADEの関係で、無権利者Dから土地を買ったEが、正当な権利者と認められることになります。
このような効力を「公信力」といいますが、日本では登記に公信力はありません(公信の原則が採用されていない)。
したがって、たとえ無権利者が登記名義人になっていても、原則としてその人から有効に土地の所有権を取得することはできません。
まとめると、土地を買おうとする人が、「土地の登記名義がAさんでないなら、Aさんから権利主張されることはない」のが公示の原則で、「土地の登記名義がAさんなら、(仮にAさんが権利者でなかったとしても)Aさんから土地を買えば正当に権利主張できる」のが公信の原則です。
そして、日本の不動産登記制度では、公示の原則は妥当しますが、公信の原則は妥当しません。
なお、言うまでもありませんが、虚偽の登記をする行為は犯罪(刑法の公正証書原本不実記載罪)ですので、絶対にやめましょう。
では、今日はこの辺で。
登記の基礎知識シリーズ
・登記とは何か
・登記はどこでするのか
・登記簿には何が載っているか?
・公示の原則
・公信の原則 ← いまここ
・権利書の話
・登記識別情報の話
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