2014年4月22日火曜日

「差押え」とはどういう制度か?

司法書士の岡川です。

商船三井の保有する船舶が中国の企業に差し押さえられたという事件が、日中の外交問題となっております。

戦後賠償について取り決めた日中共同声明との関係はどうなってるのか?とか、何で時効が成立してないんだ?とか、疑問点は多々あるのですが、そういう細かいことはさておき、もっと基本的なところを押さえましょう。

というわけで、今日のテーマは、


「差し押さえられた」ってどういうこと?


です。

なお、私が中国法についてはあまり詳しくないのと、このブログの読者が中国法に基づく差押えに遭遇する事案はそうそうないと思われることから、専ら日本法の話をします。


「差押え」というのは、最も一般化した定義では、「国家権力が物や権利の処分を禁じること」ということになります。

この差押えには、大きく分けて、民事手続における(民事執行法に基づく)差押えや、税法上の差押え、刑事手続における(刑事訴訟法に基づく)差押えの3つがあります。
なお、今話題の商船三井の事件は、民事手続きにおける差押えです。

1.民事手続における差押え

金銭債権を有する人がその権利を満足させる(実際に現金を手に入れる)にはどうすればよいでしょうか。

債務者を脅して財布を奪っ・・・それは自力救済といって、不法行為でしたね。


最もスタンダードな方法でいうと、まずは、訴訟を提起(相手を訴える)して、裁判所の判決を獲得することです。
判決が出ても支払わない相手に対しては、「判決書」という「裁判所のお墨付き」(裁判所のお墨付きのことを「債務名義」といいます)を持って、裁判所や執行官に申し立てることで、強制執行の手続に移行します。

この強制執行手続で行われるのが、「差押え」です。
すなわち、債務者の所有する物や権利の処分を禁ずる強制執行の方法を「差押え」といいます。

不動産を差押えられたら、差押えの登記が入るので、勝手に売ることができなくなります。
不動産以外の物は、執行官に取り上げられたり、使用を許可された場合も「差押物件標目票」という紙を貼られて、やはり勝手に売ることはできません。
船舶の場合、差し押さえられたら、出航が禁じられます。

権利を差し押さえることもできます。
例えば、債務者が第三者に対して有する債権(債務者が仕事をしていれば、会社に対する賃金債権など)を差し押さえることもできます。
差し押さえられた債権は行使することができなくなります。

何のために差し押さえるのか?
嫌がらせか?

もちろん紙をペタペタ貼るのが目的ではなく、最終的には、差し押さえた物を競売にかけて、売却代金から債権を回収するわけです。
また、金銭債権を差し押さえた場合は、差し押さえた債権者自身が第三者に対して請求することができるようになります。


このように、民事手続における「差押え」は、金銭債権を回収するための手段というわけです。


2.税法上の差押え

これも民事上の差押えと似たようなもので、国などが税金滞納者の物や権利の処分を禁止する手続です。
最終的には、差し押さえた物を競売にかける等して、税金を回収します。

民事手続と違うのは、徴税職員は、いちいち裁判所に訴訟を提起したり強制執行の申立てをしたりすることなく、直接差押えができるということです。
税金の滞納は、いきなり差押えを食らうので、非常に怖いのです。
注意しましょう。


3.刑事手続における差押え

これは、上記2つと少し違って、犯罪捜査のためのものです。
捜査機関(警察等)が証拠を強制的に押収することを差押えといいます。

差押えは、裁判所の令状に基づいて行われます。

捜査のために差し押さえるので、当然ながら差し押さえた物を競売にかけたりすることはありません。


以上のとおり、差押えにも色々あります。
2と3は国家機関が主体なので、一般市民は、差し押さえられることはあっても差し押さえることはありません。


なお、繰り返しではありますが、民事手続において、いくら債権を有していても「相手が金を払ってくれない」というだけで、いきなり債務者の預金を差押えたりすることはできません。
きちんと、裁判手続を経て、何らかの「裁判所のお墨付き」を取得する必要があります。


ふと「そうだ、差押えしよう」と思ったら、お近くの司法書士までご相談ください(宣伝)。
裁判所のお墨付きの取得から、強制執行の申立てまで、司法書士がお手伝いします(宣伝)。

では、今日はこの辺で。



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