2013年7月7日日曜日

子の自転車事故で、賠償金は母親が支払うのか?

司法書士の岡川です

前回の話題で、とりあえず無視しておいた点について。

事件の内容をおさらいしておくと、当時10歳くらいの少年が自転車で高齢女性にぶつかり、意識不明の重体を負わせたところ、母親に対する総額9500万円の損害賠償請求が認められたというものです。

前回は、「被害者」と「加害者」という風にしておきましたが、厳密にいうと、加害者は少年であって、その母親は直接自転車で被害者にぶつかったわけではありません。

しかし、賠償責任は母親にあります。

判決を詳しく見ていないのでわかりませんが、少年の「責任能力」が否定されているものと考えられます。

責任能力とは、「自己の行為の責任を弁識するに足りる能力」をいいます(民法712条)。
責任能力は、だいたい12歳前後で判断されるのですが、当時小5ということであれば、責任能力が否定されたのでしょう。

これが否定される人を「責任無能力者」といい、責任無能力者は自己の不法行為に対する損害賠償責任を負いません。
つまり、被害者からしてみれば、暴走する野生の牛に追突されて怪我したのと同じ状態なわけです(野生の牛は、損害賠償してくれません。気を付けましょう)。


しかし、野生の牛に追突されたら、泣き寝入りするしかなくても仕方ないですが、いくら未成熟な子のしたことだからといって、誰の責任も問われないのは被害者がかわいそうです。

そこで、民法714条には、「責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」と規定されています。

親権者は監督する義務を負うので、子の代わりに親が責任を負うわけですね。
ただし、完全な無過失責任(結果責任)を負うわけではなく、親の方で、「私の監督は完璧だった!」と証明できれば、責任は免れます。
昨日の事件では、母親がその証明をできなかった(と裁判所は判断した)、ということです。


特に小さなお子さんをお持ちの方は、「加害者側の保険」(損害賠償責任保険)に入ることを検討するのも一つの手です。
既に何かの保険に入っている方は、「自分の子が他人に損害を与えた場合の損害賠償金を補填してくれる特約」がついているか、確認しておきましょう。

では、今日はこの辺で。
関連記事→認知症患者の家族の損害賠償責任

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