2013年7月8日月曜日

未成年後見人の損害賠償責任

司法書士の岡川です

昨日の話題に引き続き、未成年者の加害行為と損害賠償の(少し発展的な)話をします。

親権者がいる場合は、親権者が責任を取る。
これは、「子供の責任は親がとる」ということで、まあ直観的にわかり易いですね。

ところで、親権者がいない子(両親が死亡して養親も存在しない場合等)には、「未成年後見人」という、親権者の代わりに子の監護をし、財産を管理する立場の人がつきます。
未成年後見人は、全くの第三者でも構いません。
この点は、同じ「後見制度」である成年後見制度と変わりません。

そうすると、成年後見制度において「専門職後見人」といわれている、司法書士、弁護士、社会福祉士らが選任されてもよさそうですが、実は、未成年後見の専門職後見人は、成年後見ほど多くありません。
というより、専門職後見人が選任されることはほとんどないのが現状です(成年後見ほどしっかりとした統計は出ていませんが)。
知り合いの司法書士で一人、未成年後見人をしている人がいますが、周りでもあまり聞きません。


まずそもそも未成年後見の選任申立件数が少ないということがあります。
「両親も養親も不在で、施設にも入っていない」という子が毎年何万人も出てくる状況にはなっていないからです。
しかし、それでも毎年3,000件程度の申立てはあります。

そんな中、司法書士や弁護士が未成年後見人にならないのは、制度的な問題がある点も要因のひとつではないかと考えられます。
実は、昨年施行された民法改正で、未成年後見制度は少し使いやすくなったのですが、それでもまだまだ完全ではありません。


未成年後見制度の大きな問題のひとつが、損害賠償責任の点です。

未成年後見人の特徴のひとつとして、未成年後見人には「監護権」があります。
「権」とありますが、監護権は純粋な権利ではなく、子を適切に監督し、保護し、教育する「権利と義務」の両面があります。
もちろん、未成年後見人になったからといって、一緒に住んだり、養ったりする義務はありませんが(これが養親との違いです)、「監督・教育する義務」があります。

と、いうことは、昨日の話題につながるわけです。
つまり、例えば10歳くらいの未成年者(責任無能力者)につく未成年後見人は、未成年者が誰かに損害を与えた場合に賠償義務を負うことになります(民法714条の責任)。
また、未成年者に責任能力が認められる場合であっても、未成年後見人に監督義務自体はあるわけで、場合によっては監督義務違反として独自に不法行為責任を問われる可能性もあります(民法709条に基づく通常の不法行為責任)。


未成年後見人は、親ではないけど、民法上、未成年者の行為について親と同等の責任を負っていることになります。
したがって、未成年者がもし自転車で高齢女性にぶつかって意識不明の重体に陥らせてしまったら、未成年後見人自身が9500万円の損害賠償責任を負うことにもなりかねません。
非常にリスクが高いということです。
一応保険もあるのですが、保険でカバーしきれない点もあります。
未成年者が、故意に不法行為を行った場合など、保険金が出ない可能性が高い。

これが、司法書士や弁護士等の第三者が未成年後見人を引き受けにくい原因のひとつです。

権利擁護という点では、成年後見だけでなく未成年後見も積極的に引き受けたいところなのですが(今のところ、そういう相談を受けたことはないですが)、やはり、このリスクを回避する方法ができない限り、正直いって躊躇してしまいますよね。

親のいない子の権利を保護するためには、何らかの制度改善が望まれます。

では、今日はこの辺で。

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