2013年12月15日日曜日

時効の完成に気を付けよう

司法書士の岡川です。

前回前々回に続き、時効の話です。
このうち、刑法と刑事訴訟法に規定された刑事法上の時効(刑の時効と公訴時効)については、基本的には気を付けるのは検察官や警察官なので、一般の人が気を付けることはあまりありません。
被害届を早く出すとか、特に親告罪なら早く告訴するとか、そういう点で気を付けることはありますけど。

一般の人が注意すべきは、どちらかというと民法等に規定されている民事の時効(取得時効と消滅時効)です。
なので、主にこちらの制度について注意喚起です。

まず、取得時効。
取得時効は、長期間の占有者が権利を取得する反面として、元々の権利者が権利を失うことになります。
もちろん、占有者側が元々正当な権利者だという場合もあります(むしろ、そういう場合に真の権利者を保護するために存在する制度なのです)が、実際は占有者に何ら権利がないという場合もあります。
そんな場合であっても、長期間の占有によって、完全に正当な権利が付与されることになるのが取得時効の制度です。
もし自分が真の権利者である物を、他者に(正当な権原なく)占有されている場合、占有者に時効取得される前に、きちんと争っておく必要があります。
争わずに、他人が占有するのを放置していれば、「権利の上に眠る者」として保護されなくなります。


さらに、直接的に権利を失うのが消滅時効という制度です。

所有権だけは消滅時効にかかることはないのですが(民法167条)、それ以外の権利は、一定期間行使しなければ時効によって消滅してしまいます。
原則として、債権なら10年、それ以外の権利(所有権除く)なら20年です。
個別の権利については、もっと短い期間が規定されているもの(短期消滅時効)もありますので、中途半端な知識で「時効は10年」と思い込むのは危険です。
例えば、不法行為に基づく損害賠償請求権は、不法行為を知った時から3年で時効になってしまいます。

というわけで、支払期がきた債権など、いつでも請求できる状態になっているのに、「いつか請求しよう」と思って放置すると、忘れたころに時効によって消滅してしまう可能性があるので注意が必要です。
また、関連する手続きが進行中であったり関連する他の権利関係に争いがある場合であっても、それ以外の債権については、個別に時効期間が進行することもあります。
なので、安易に「こっちの手続きをやってるところだから、これが終わっときにまとめて請求しよう」と考えてはいけません。

借用書などの証拠があっても、時効期間が経過した瞬間、その「借用書」という書面は、ただの紙切れと化し、もはや裁判所も助けてくれません。
これは、たとえ裁判所の判決であっても同様です。
勝訴判決が確定し、「これで一安心」と思って10年間放っておいたら、やはりその判決書は、ただの紙切れと化します
もうメモ用紙にでも使うしかありません(判決書の紙は質があまりよくないので、残念ながらメモ用紙としても使いにくいです)。

なお、気を付けなければいけないのは、「定期的に請求書を送りつけていれば安心」かというとそうでもありません。
時効完成を妨げるための「請求」は、裁判所を通したものでなければなりません。
いくら個人的に請求書を出しても(たとえ内容証明であっても)、6か月以内に裁判上の手続きを取らなければ、時効は中断しません(民法153条)。
6か月だけ時間稼ぎができるというだけなのです。
その間に訴えを提起するとか、既に債務名義があるなら差押えをするとか、確実な証拠があるなら支払督促を申し立てるとか、何らかの強力な請求をして初めて時効が中断します。


時効を中断させるために、どのような手続きが適切かは、お近くの司法書士にご相談ください(宣伝)。

では、今日はこの辺で。

2013年12月13日金曜日

時効の存在理由

司法書士の岡川です。

昨日の続きで、今日も時効の話。
時効は、本当は他人の物が自分の物になったり、自分の有する権利が消滅したり、ある意味「不自然」な制度だといえます。

そんな時効制度の存在意義は、いろいろな考え方があります。

ひとつは、「永続した事実状態の尊重」という点。

長い間、刑が執行されなかったり、公訴されなかったり、権利が行使されなかったり、自分の物として占有していたり、そういう状態が続いていたから、それを前提にして、様々な法律関係が積み重なっていることになります。
その場合、今更「本来あるべき法律関係はどうなんだ」とか問い直して、場合によっては現状をガラッとひっくり返したりするよりは、今の状態を尊重して確定することが望ましい、という考えです。

特に、真の権利者じゃない人や、義務者などの利益を保護する根拠になります。


それから、「立証困難の救済」という点。

例えば公訴時効の場合、被告人は、10年も20年も前の犯行についてアリバイを証明しろといわれても酷な話です。
起訴する側は、犯行直後から捜査資料を保管しているでしょうが、被告人は、特に本当に犯行と無関係な場合など、自分に有利な証拠をそんな長い間持っているとは限りません。
したがって、何年も経った後から起訴するのは、避けるべきという考えですね。

これは、民事上の時効でも同じことがいえます。
消滅時効だと、例えば「30年前に弁済した」ということを証明しようにも、証拠が残っているとは限りません
二重に弁済する危険を負わすのではなく、大昔のことを立証困難なのは仕方ないから、それは救済しようという考えです。

これは、特に真の権利者の利益を保護する根拠になりますね。


もうひとつは、「権利の上に眠る者は保護しない」という点。
特に民事上の時効の話になりますが、「10年も20年も請求せずに放っておいたくせに、今更請求するなよ」という考えです。
権利を有しているのに、あえて行使しないのなら、それを保護する必要はないということです。


こういった考え方のうち「どれが根拠」と決めることはできませんので、最近では、いくつかの根拠を組み合わせたりして、存在意義が説かれています。

時効に対する考え方も様々なので、ある種の時効についてはもっと長くてよいのではないか、あるいは逆に短くすべきではないか、という議論はずっと続いています。
今進められている民法改正においても、議論の対象となっています。

そんなわけで、いろんな理由があるけど、結局のところ政策的に設けられている制度といったところでしょうかね。

では、今日はこの辺で。

2013年12月12日木曜日

いろんな「時効」

司法書士の岡川です。

「時効」というのは、一般的にもよく知られた法律用語のひとつだと思います。
その意味するところもなんとなく、「一定の時間が経過したら、何らかの効果が生じる制度」くらいには理解されていることでしょう。
その理解で、概ね間違っていないのですが、勿論、法律で定められた時効制度は漠然としたものではなく、もう少し詳細に決められています。


一口に「時効」といっても、大きく分けて、刑事法上のものと民事法上のものがあります。

さらに、刑事法上の時効には「刑の時効」と「公訴時効」があり、民事法上の時効には「取得時効」と「消滅時効」があります。
(→参照「民事と刑事」)

まずは、刑事法上の時効。
「刑事」なので、犯罪に関わる時効ですね。

1.刑の時効

刑の言渡しが確定してから一定期間の経過しても刑が執行されない場合に、刑の執行を免れる制度です。
これは、刑法31条以下に規定されています。

被告人として裁判にかけられていても、刑が確定するまでは犯罪者ではないので、その段階では牢屋に捕まっているわけではありません。
したがって、刑の言渡しがあったとしても、その人の身柄を確保できていない場合もあるのです。
刑の言渡しを受けた者が、所在不明になったりして、刑法に定められた期間、刑を執行されなかったら、その後は執行することができなくなります。

この制度は、犯罪の「時効」として一般的に知られている制度(何年間逃げれば、もう起訴されなくなるというやつ)とは違い、起訴されて、刑も確定した後の話です。
あまり馴染みのない制度ですが、どうやら年間数件はあるみたいですね。

2.公訴時効

犯罪について、「時効」といえば、一般的には公訴時効を指します。
これは、犯罪が行われてから、一定の期間が経過すれば、公訴を提起(起訴)することができなくなるという制度で、刑法ではなく刑事訴訟法に規定されています。

犯罪者は、起訴されて刑事訴訟法上の手続きを経た後でなければ処罰されませんから、起訴できないということは、無罪放免とほぼ同義です。
もっとも、公訴時効完成後に出頭してきた人に対して、民事上の損害賠償請求が認められることもあります。
また、現行刑事訴訟法では、死刑に相当する罪などには公訴時効が存在しませんので、殺人犯はいくら逃げても時効が完成することはありません。


次に、民事法上の時効です。
こちらは、犯罪ではなくて、私法上の法律関係に関する時効です。

3.取得時効

取得時効とは、文字通り、時効完成により物を取得することができる制度です。
民法162条以下に規定されています。

他人の物を一定期間占有したらそれが自分の物になるという、何ともお得な制度ですね。
まあ、元の所有者からすれば、損する制度なんですけど。

もちろん、他人の物を勝手に盗んできたような場合や、借りた物をいつまでも返さない場合(いわゆる借りパク)は、いくら占有し続けても時効は完成しません。
他人の物を占有するに至った経緯が、客観的に自分の物として占有し始めたといえるような状況でなければいけないのです。
例えば、物を借りたのではなく貰った場合ですね。

「貰ったんなら時効とか関係ないじゃん」と思われるかもしれませんが、例えば、何十年も経ってから「あげた覚えはない。返せ」と言われた場合を考えてください。
貰った側としては、時効だろうが贈与だろうが、とにかく自分に所有権があるといえればいいわけですから、「貰った」という証明ができなくても「時効」を証明すれば済むということになります。

4.消滅時効

取得時効とは、取得時効とは逆に、一定期間の経過により、自分の権利が消滅してしまうという制度です。
民法166条以下に規定されています。

権利者からすれば損するのですが、義務者からすれば、義務を免れるので、とってもお得な制度です。

基本的には、10年で時効と考えていただければいいのですが、権利によっては20年という長期の経過で完成することもあり、逆に1年で時効にかかるものもあります。



どの制度も、「時間の経過によって何らかの効果が生じる」という点で共通します。
しかし、細かい要件はいろいろあるので、「とにかく長い時間が経てばよい」というものでもありません。

損しないためにも、時効については、正しく理解しておきましょう。
というわけで、時効についてあと何回か続きます。

では、今日はこの辺で。

2013年12月11日水曜日

「共謀罪」と現行法の違い

司法書士の岡川です

ここにきて急にまた共謀罪の話が出てきました。
正確には、組織犯罪処罰法の改正案なのですが、今まで何度も国会に提出されては廃案になってきたものが、次期通常国会にまた法案が出されるとか出されないとか。
特定秘密保護法が成立したところなので、不穏な空気が漂っていますね。

これまた政治的な話題になりますので、例によって法案の是非はひとまず置いて、今日は普通に刑法のお話をします。

現行刑法や特別刑法には、いろんな犯罪類型が存在しますが、それらは通常、他人の法益(法によって保護すべき利益)に対する侵害となるような行為です。
刑法というのは、法益侵害を防ぐためのものですから、法益と無関係なものを犯罪を規定しても意味がないからです。
無意味な犯罪類型を設けて、それによって犯罪者を処罰すれば、国家による不当な人権侵害ということになってしまいます。

そういうわけで、犯罪は、何らかの意味で法益に関係するのですが、必ずしも「現実的に法益が侵害された場合」のみが犯罪になるわけれはありません。
法益侵害という結果との「距離」によって、いくつかのパターンが存在します。

まず、実際に法益侵害結果をもたらした場合、これは「既遂犯」といいます。
犯罪の基本類型ですね。
殺人既遂罪は、人を刺して相手が死んだ段階で成立します。

法益侵害結果から少し離れて、犯罪に着手したけれど、結果の発生に至らなかった場合は、「未遂犯」といいます。
殺人未遂罪は、人を刺したけど相手が死ななかった場合ですね。
未遂罪は、個別の規定において、未遂を罰するとされている場合にのみ成立します。

さらに法益侵害結果から離れて、犯罪に着手する前、準備をした段階で成立する犯罪を「予備罪」といいます。
殺人予備罪なら、人を刺すためのナイフを準備して待ち構えている段階ですね。
予備が処罰対象となっているのは、一定の重大な犯罪に限られます。

もっと法益侵害結果から離れて、犯罪の謀議をした段階で成立する犯罪を「陰謀罪」といいます。
陰謀罪は、殺人にすら規定されておらず、刑法典には「内乱陰謀罪」「外患誘致陰謀罪」「外患援助陰謀罪」「私戦陰謀罪」のみ存在します。
要するに、陰謀罪があるのは、武力革命とか戦争を起こす場合に限られています。


さて、共謀罪というのは、現行法においては、極めて限定された特殊な犯罪類型においてのみ「陰謀罪」として個別に規定されている「謀議のみで犯罪成立」という規定を、組織犯罪については、もっと一般的に(一定以上の重い犯罪に)適用しようとするものです。


何度も廃案になったことからも分かるとおり、これは極めて批判の強い法案です。
その一方で、テロ対策のために必要性が訴えられて、何度も議題に挙がっています。

極論、暴論、陰謀論、感情論、その他しょうもない主張に振り回されることなく、冷静に議論が行われることを望みます。

では、今日はこの辺で。

2013年12月10日火曜日

乃至

司法書士の岡川です。

突然ですが問題です。
これ↓は何と読むでしょう。

乃至








正解は、「のし」ではなく、「ないし」です。

例えば

AないしB

というと、一般的には、「AかB」という意味ですね。
法律の世界でも、「AかB」という意味で「AないしB」と使うことはありますが、法律の条文では、「AかB」の意味で「A乃至B」とは出てきません。
「AかB」は「A又はB」と書くからです(「特定秘密保護法案におけるテロリズムの定義」も参照)。

では、どういうときに使うか。

第1項乃至第3項

といったふうに使います。

くどいようですが、これは「第1項か第3項」という意味ではありません。
「第1項か第3項」なら「第1項又は第3項」と書きます。

正しくは、「第1項~第3項」という意味です。

「A乃至B」は「A~B」という意味なのです。

実は、国語辞典にも載っている用法なので確認しておきましょう。

ちなみに、「乃至」は、主に古い法律で使われるもので、最近の法律では、ふつうに「から」と書いてあります。

では、今日はこの辺で。