2020年2月9日日曜日

債権法改正について(38)(契約不適合責任1)

司法書士の岡川です。

年末のちょっと前くらいからずーっとバタバタバタバタしておりまして、ブログの更新もいつも以上に滞っていましたが、まだ元気に生きてます。

さて、ようやく契約不適合責任の話になります。

時効の話(これとかこれとかこれ参照)とか、保証の話(これとかこれとかこれとかこれ参照)とか、今回の債権法改正で大きく変わったポイントがいくつかありましたが、おそらく最大の改正ポイントがこの契約不適合責任の話だと思います。


契約不適合責任は、民法の売買に関する規定に出てきます。

そもそも民法の売買に関する規定というのは、単に売買契約にのみ適用される条文ではありません。
売買に関する規定は、その他の有償契約(当事者双方が対価的な給付をする契約。売買のほか、賃貸借や交換など。これに対し、一方が対価的な給付をしない贈与や使用貸借は無償契約という。)に準用されており(559条)、実質的には「有償契約に共通するルール」が、条文上は(その代表的な契約類型である)売買のルールとして規定されているのです。


まあそれはいいとして、売買に関する規定って条文数はけっこう多い(555条から585条まである)んですけど、「どういう時に売買契約が成立するか」みたいなことを規定しているのは、基本的には555条ただ一つだけなんですね。
その唯一のルールは、「当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約する」という、ごくごく単純なものなので、「買うよー」「売るよー」の意思が合致さえすれば契約成立。

というわけで、売買に関する規定の大部分が、売買(が成立した時)の効力に関するものであり、その中心となるのが「担保責任」に関する規定です。


担保責任とは、契約の目的物や権利に何らかの瑕疵(「かし」=不具合や欠陥のこと)があった場合に、それを給付した側が負う責任のことです。

建物を売ったら欠陥住宅で、買主が住んでみるとめっちゃ雨漏りがすることがわかった場合、売主としては何をしないといけないか、逆にいうと買主は売主に何を請求できるのか。
これが売主の担保責任の話ですね。

現行民法は、色んな場合(例えば、物の数量が足りなかった場合、物に隠れた瑕疵があった場合、取得した権利に制限があった場合、などなど)を想定し、これらの場合にそれぞれ売主はどのような担保責任を負うのかが規定しています。
かの有名な「瑕疵担保責任」というのも、目的物に瑕疵があった場合の担保責任です。


少し専門的な話になりますが、この担保責任の法的性質については、民法学の大きな論点の一つであり、長年にわたって血みどろの争い…もとい大論争が繰り広げられてきたところです。

何が問題かというと、売買の対象となった物に不具合があったら、そもそも、それは完全に売主の債務を履行したことにはならないとも考えられるからです。
で、そういう場合は「債務不履行」というルールがありまして、売主が債務を完全に履行しないなら債務不履行責任を負うはず。

そうすると、それとは別に存在する(要件効果が異なる)担保責任って何なの?債務不履行とは違うの?ということです。

これを説明する伝統的な通説は、「特定物においては、瑕疵があろうとも債務自体は履行されている」という考えを前提に、債務不履行とは別に「法が特別に定めた責任」なのだという理解をしてきました。
これを法定責任説といいます。
これに対して、担保責任も債務不履行責任の一種だという理解が近時では有力になっており、これを契約責任説(債務不履行責任説)といいます。


法定責任説と契約責任説の細かい理論なんかは、まあ各自民法の基本書等で勉強してもらうとして、ここではこれ以上踏み込みません。
というのも、改正法では、現行法で担保責任とされていた売主の責任を「契約不適合責任」という新しい概念で再構成したわけですが、ここで明文化された要件効果は、契約責任説に基づく規律が採用されています。

つまり、「特定物か不特定物を問わず、目的物に何らかの不具合があった場合、売主は契約責任(債務不履行責任)の一種である契約不適合責任を負う」という形で立法的に解決されたわけです。
争いのタネであった、通常の債務不履行との関係も明文で整理されたため、わざわざ「法が特別に定めた責任」というものを観念する必要もありません。

終止符が打たれた論争を今更ほじくり返してもあんまり意味がないので、その辺はさらっと全力で無視して、次回、その債務不履行責任の一種である契約不適合責任の内容を解説しようと思います。


なお、瑕疵担保責任が契約不適合責任に置き変わった、というような説明がされることもありますが、契約不適合責任に整理されたのは瑕疵担保責任(現行民法570条に規定された「物の瑕疵」)だけでなく、「権利の瑕疵」に対する担保責任(いわゆる追奪担保責任)を含めた、売主の担保責任全体です。
物理的な問題か権利関係の問題かを問わず、とにかく売買の対象が契約の内容に適合しない場合すべてを契約不適合責任として一元的に把握するのが改正債権法の考え方です。

そこんところ誤解のないよう気を付けましょう。


では、今日はこの辺で。

2019年12月16日月曜日

債権法改正について(37)(定型約款)

司法書士の岡川です。

今日は、今回の債権法改正の目玉のひとつでもある「定型約款」の話。

これは、完全に改正法で新設される概念です。
とはいえ、実生活では今でも普通に存在するものですね。

約款というのは、不特定多数を相手とする取引において、定型的な内容について予め定められている契約条項(の総体)をいいます。

例えば、銀行で預金するのも一種の契約ですけど、銀行で口座を作るときに、いちいち銀行の担当者と交渉して契約の内容を決めていき、合意に達した段階で個別に契約書を作成し…なんてことはしませんね。
予め銀行が用意している銀行取引約款(名称は様々)に基づいて取引が行われるだけです。
口座開設するときには皆さん受け取っているはずですが、小さい冊子に細かい文字でびっしりと書かれたアレが約款です。
あんなもん、誰も読みません。
あれが約款です。

ところで、契約というのは、当事者の合意(意思の合致)によって成立するものですから、約款を読んだこともない人との間で契約が成立するのか?という根本的な疑問が生じるかもしれません。
内容を知らずに合意なんかできませんからね。

ただ、予め約款が用意されている取引をするにあたっては、「約款に従って取引をする」という合意はなされているはずなので、この合意をもって契約が成立したと観念できます。
つまり、一方当事者(主として事業者)が約款を用意し、他方当事者(主として消費者)は、「その約款にしたがって取引をする」か「取引をしない」かを選択することになり、取引をする方を選択すれば、自動的に約款に書かれていることが契約の内容となるわけです(こういう契約を附合契約といいます)。

とはいえ、基本的に約款とか熟読しないものだし、個別の条項について交渉の余地がないわけで、何でもかんでもそれで契約が成立してしまうとすれば、危険極まりない。

そこで、約款について、どのような場合に、どの範囲で契約が成立したといえるのか(逆にいえば、どういう条項は無効となるのか)、というルールが必要となるわけですが、現行民法には約款に関する規定はありません。

今までは、実務と判例の蓄積で、おおよそのルールが確立されていたわけですが、今回、債権法改正によって約款に関する細かいルールが条文化されました。
ただし、あらゆる約款についてのルールではなく、改正民法における「定型約款」の定義(548条の2)に当てはまる約款だけを対象としています。

たとえば、約款の条項について、個別の取引において修正する余地がある(常に修正しないで使用することが合理的だとはいえない)ような場合、定型約款には該当しません。
定型約款に該当しない場合(あるいは、該当しても新法の射程が及ばない場面では)、なお従来の判例法理が適用されることになります。


その定型約款に関する基本的なルールは次のとおりです。

第548条の2 定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
一 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
二 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
2 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。


1項は、定型約款の定義と、これが契約の内容となる場合のルール。
明確に「この約款で契約します」と合意する場合が1号、そうでなくても、約款を作った側が「この約款で契約します」と相手に表示していた場合が2号で、いずれも約款が契約内容となります。

で、2項については、信義則(1条2項)に反して一方的に相手方の利益を害するような条項(例えば、約款作成者の免責条項などが該当する可能性があります)は、合意をしなかったとみなされる(つまり、その条項が無効になるのではなく、そもそも契約の内容として成立していないことになる)というルールです。
不当条項を無効とする消費者契約法10条とは効果が異なりますね。


また、定型約款が契約の内容に取り込まれるためには、相手方がその内容を認識しているか、少なくとも認識可能でなければなりません。
そのため、定型約款準備者には、内容開示義務があり、開示義務に違反すると548条の2の規定の適用が排除され、合意が擬制されません(548条の3)。


定型約款の内容で合意した後、継続的な取引が行われている途中で、事後的に契約内容を変更する必要性が出てくる場面は少なくありません。
画一的な取引のための約款ですから、変更には常に個別対応しなければならないとすれば不便です。

とはいえ、勝手にその内容が変更されても困ります。
そこで、変更ルールも明記されました(548条の4)。

一方的に定型約款を変更できるのは、次のいずれかに該当する場合です。

一 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
二 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。

特に2号の場合、定款変更の効力発生時期が到来するまでに、その内容を周知しなければ効力を生じません(1号の場合も周知はしなければならないが、効力発生時期より後でもよい)。


定型約款の規定が明記されたことで、これまでの判例法理との関係や、新たな解釈上の疑義等が問題になってくると思いますが、すくなくとも部分的には約款の取り扱いが明確になりました。
消費者問題が生じたときに、この条項がどこまで効果を発揮するか、今後の運用に注目です。

では、今日はこの辺で。

2019年11月7日木曜日

債権法改正について(36)(危険負担)

司法書士の岡川です。

債権法改正では、危険負担のルールについても大きく変わります。

そもそも「危険負担」とは何かというと、双務契約(ざっくりいうと当事者双方が義務を負っている契約)上の債務の履行ができなくなった場合に、どちらがその不利益を甘受するかという問題です。
より具体的にいうと、履行できなくなった債務と対価関係にある他方の債務(反対給付)は消滅するかどうかです。

ただ、債務者の過失で履行できなくなったのであれば、債務不履行の問題として処理すればよいので、危険負担の問題は、債務者に過失がないような場合です。


例えば、車の売買契約が成立した後、引渡し前に車に隕石が直撃して木っ端微塵にになった経験がある人もいると思います。私はないですけど。

この場合、車の引渡債務を負う売主(債務者)が危険を負担するということであれば、売主の代金債権(=買主の代金支払債務)が消滅するということを意味し、代金をもらうことはできません。
売主としては、車は消滅するし代金はもらえないし、で丸損です。

逆に、買主(債権者)が危険を負担するということであれば、引渡債務が履行できなくなっても、代金債権(=買主の代金支払債務)は消滅しないということを意味し、車を渡さなくても代金をもらうことができるということになります。
先ほどと違い、今度は買主が、車はもらえないし代金は支払うし、で丸損です。


もっといえば、債務不履行の問題になる場合(債務者に帰責性がある場合)以外であれば危険負担の問題が生じるので、債権者側に責任がある場合も問題になります。
例えば、車に直撃したのが隕石ではなく、実は買主(債権者)がマンションの上から投げ落とした岩だったような場合ですね。
この場合も、車を引き渡すことはできませんので、それでも代金はもらえるのか、もらえないのか。


さて、この危険負担のルール(どっちが危険を負担するか)は、民法にあります。

現行民法では、債務者負担が原則とされており、基本的には、債務が履行できなくなった場合、たとえ自分に責任がなかったとしても反対給付を受けることはできません(債務者主義)。

しかし、その例外として、

1.特定物に関する物権の設定又は移転の場合
2.停止条件付双務契約の目的物が条件の成否が未定である間に滅失した場合
3.債権者に帰責性がある場合

の3パターンについては、債権者負担とされています(債権者主義)。

先ほどの例でいうと、車が特定物(※簡単にいうと、売買の対象が「この車」と具体的に特定されている場合です)だとすれば、隕石が直撃しようがマンションの上から投げ落とした岩が直撃しようが、いずれにせよ債権者負担であり、買主は代金を支払わなければなりません。


買主としては、マンションの上から岩を投げ落とした場合はさておき、「何で隕石が直撃した場合まで代金支払わなあかんねん。引き渡すまでは責任もてよ」っていう批判が大きいルールとなっています。
なので、実際の取引では、物を引き渡す時まで債務者負担とする特約がついていることが少なくありませんし、感覚的にもそのほうが納得しやすいですね。


というわけでここからが改正法の話で、上記の債権者主義の規定の1と2が条文ごとバッサリ削られました。
さすがに3は債権者負担で誰も文句は言わないでしょうから、これは残っています。

もちろん、いつまでも債務者負担になるわけでなく、現在の取引でも一般的に行われているように、目的物の引渡し(あるいはその提供)があったときまでが債務者負担で、それ以後は債権者負担となることが条文化されました(567条)。
これが原則となったので、わざわざ特約にする必要もありません。


なお、危険負担の効果として、現行法では、「反対給付を受ける権利の消滅」ということになっていますが、改正法では、当然に権利が消滅するわけではなく、相手方が「履行を拒むことができる」だけになりました。
もっとも、契約解除の要件が改正されて、履行が不能であれば債務者の帰責性を問わず契約を解除することができるようになるので、債権者が契約を解除すれば、これによって反対給付を受ける権利も消滅することになります。


というわけで、今日の結論としては、債務者は自分の債務を完全に履行するまでは、自分に過失のない色んなリスク(隕石とか)にも備えておきましょうということです。


では、今日はこの辺で。

2019年10月1日火曜日

債権法改正について(35)(契約の成立)

司法書士の岡川です。

契約は、申込みの意思表示と承諾の意思表示が合致すると成立します。
また、契約は、法律に特別な例外規定が定められていない限り、締結するもしないも自由であり、どのような内容、どのような方式でするかも自由です(契約自由の原則)。

これらの大原則は、現行法の解釈上、全く異論がないところではありますが、改正法では、わざわざ明記されることになりました(改正521条、522条)。

まあそれはいいとして。

契約の成立について、「どのタイミングで成立するのか」というルールについて、時代に合っていないものがあります。
なんせ、メールも電話も存在しない明治時代にできた民法ですから、申込みと承諾までに結構なタイムラグが生じたり、意思表示が相手方に到達しない間に何かが起きる危険も大きいという前提で作られています。


例えば、意思表示というのは基本的に到達主義(97条)であり、相手に到達した段階で効力が生じるのが原則です。

しかし、申込みと承諾という双方の意思表示が必要となる契約では、申込の意思表示が到達し、しかも、相手方が承諾していたとしても、その承諾の意思表示が申込者側に到達するまではさらに時間がかかる。
双方の意思が合致してるのに、承諾の意思表示が到達するのを待たないと契約が成立しないのでは、迅速な取引に支障をきたすことになります。
少なくとも明治時代は。

そこで、到達主義を定めた97条1項の例外として、隔地者間の契約については、承諾の意思表示が発された時点で契約が成立する、というのが現行法のルールです(現行526条、発信主義)。


他にも、承諾の意思表示が予め定められた期間を過ぎてから到達した場合、申込者は延着の通知をしなければならず、延着の通知を怠れば期間内に到達したものとみなされました(現行522条)。
さらに細かい場面設定として、「申込の通知をした後に撤回の通知を出したが、この撤回の通知が、通常であれば相手方が承諾の通知を発する前に到達するはずが到達せず、相手方が承諾の通知を発した後に撤回の通知が到達した」という場合についても、延着の通知を発さないといけないというルールがありました(現行527条)。


とはいうものの、通信技術が発達した現代では、電話でもFAXでもメールでも、申込みだろうが撤回だろうが承諾だろうが、どんな通知でも即時に相手方に到達し、到達確認も即時にできるわけです。
そういうわけで、現在でも、「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」が適用される場合では、上記の発信主義が適用除外となっています。

例外の例外場面が特例法に定められているわけです。

更に進めて、わざわざ契約の成立についてのみ到達主義の例外を設ける必要性に乏しく、また、通知が期間内に到達しなかった場合のリスクも発信者側に負わせるのが合理的です。

というわけで、上記の発信主義ルールは全部削除されました。


契約の成立に関する大きな改正点はこんなところですね。


懸賞広告についても微妙に改正があるのですけど、まあ、条文読んでのとおりなので条文確認しましょう。


では、今日はこの辺で。

2019年8月22日木曜日

債権法改正について(34)(有価証券)

司法書士の岡川です。

今日は有価証券の話。

そもそも「有価証券」とは何か、というと、細かいところで争いはあるのですが、概ね「財産権を表章する証券で、権利の移転及び行使が証券によってなされるもの」というのが一般的な定義です。
手形、小切手、株券とかが典型例です。

金融商品取引法では、その一部のみが有価証券として定義されていますが、本来はもっと広い概念です(例えば、小切手は典型的な有価証券ですが、金融商品取引法の定義規定には含まれていない)。


この有価証券というものは、多くは商取引において用いられるものであり、民法というより商法分野の話(有価証券法の典型である手形・小切手法は、かつて商法典の中にあった)なのですが、実は、似たような規定が現行民法にもあるんですよね。

例えば、現行469条の「指図債権の譲渡は、その証書に譲渡の裏書をして譲受人に交付しなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。」という規定なんかは、いかにもそれっぽい。

指図債権のほかにも、現行民法には、証書(証券)の存在を前提とした債権として、記名式所持人払債権と無記名債権に関する規定があり、これらの債権を講学上「証券的債権」といいます。
主に債権譲渡に関する規律として、民法に定められています。


他方で、商法典にも、ところどころ「有価証券」という文言は出てくるものの、有価証券に関する一般的な(通則的な)規定というのは存在しません。
有価証券のうち、船荷証券については商法757条以下に、手形については手形法に、小切手については小切手法に、株券や社債券については会社法に、といった具合に、個別の有価証券について、それぞれの法律で定められているのが現状です。


では、今回の民法改正に関わってくる、民法に定められた「証券的債権」とは何なのか。

有価証券の定義にもよるものの、一般的には、証券的債権(が結合しているところの証書)は有価証券ではないと考えられており、通常の債権(指名債権)と有価証券の中間くらいのモノだということになります。

例えば、証券的債権の譲渡は意思表示によってなされ、上記のとおり証書の交付は対抗要件にすぎません(少なくとも条文上は)から、「権利の移転が証券によってなされる(=裏書・交付が移転の効力要件)」という有価証券の定義とは整合しないのです(権利の移転が証券によってなされることを有価証券の必須の要件としない見解ならこの点クリアされるのですが)。

では、有価証券とは似て非なる中間的な存在である証券的債権という中途半端なモノがどこで使われているかというと、「そんなものは現実には存在しない」とされています。
流通性を高めた債権が必要であれば、有価証券が使われるからです。

となると、この有価証券に似て非なる概念の存在を維持する実益もあまりないことから、改正民法では、従来の有価証券法理と抵触する部分は改めたうえで、これらを正面から有価証券に関する通則的な規定として整理しました。

すなわち、「有価証券」に関する規定として、520条の2から520条の20が新設され、名称についても、「指図債権」は「指図証券」に、「記名式所持人払債権」は「記名式所持人払証券」に、「無記名債権」は「無記名証券」となり、堂々と「証券」を名乗っております。


有価証券法が商法の一分野であるなら、有価証券の一般規定は、商法(商法典)に置けばよかったんじゃね?という疑問もあるかもしれないところですが、必ずしも商法の適用場面ではない(つまり、商取引と関係のない)有価証券というのも存在しうる(例えば発行主体が商人ではない「国立大学法人等債券」等)ことから、商法改正ではなく民法改正において、民法に一般規定を置くことになりました。


従来の証券的債権との比較でいうと、証券の交付(指図証券については裏書も)が譲渡の効力要件になったことや、無記名債権(無記名証券)が動産とみなされるのではなく記名式所持人払証券の規定が準用されるようになったことが主な相違点で、その他は基本的には従来の解釈が維持されたまま明文化されいるようです。

なお、民法に一般的規定ができたことで、商法から有価証券や証券的債権に関する一部の規定(516条2項~520条)が削除されていますので、併せて確認しておきましょう。


では、今日はこの辺で。