2015年5月12日火曜日

強制執行入門

司法書士の岡川です。

近代法秩序のもとでは、自己の権利を(強制的に)実現するにも法律に則った手続きをとらなければなりません。
これまで何度も書きましたが、自力救済禁止の原則ですね。

では、法律に則った手続きというのが具体的にどういうものかというと、まず「債務名義」という裁判所のお墨付きをもらい、その債務名義に基づいて強制執行をするという流れになります。
債務名義の典型例が「判決」であり(もちろん、敗訴判決ではダメですが)、他にも和解調書とか執行証書とかがあります。

相手に何かを請求するとき、裁判所に訴えて裁判(訴訟)手続に持ち込む、というのは、何となく皆さん知っていることでしょう。
訴訟のなかで主張が認められたら、裁判所に勝訴判決がもらえます。


と、ここまでは、よく知られている手続です。


ただ、これでは債務名義を取得しただけです。
訴訟に負けた相手が観念して債務を履行してくれればよいのですが、裁判所に言われたからといってそう簡単に言うことを聞いてくれる人ばかりではありません。

そうなると、いよいよ最終手段として、債務名義に基づいて強制的に権利を実現する手続きが必要になってきます。
これを「強制執行」といいます。


前置き終わり。

今日はその強制執行手続の話です。

強制的に権利を実現するとは具体的にどうするかというと、例えば金銭請求であれば「相手の財産を差し押さえて、お金に変えて取得する」とか、建物明渡請求であれば「建物の中の荷物を運び出して、相手も追い出す」といった感じです。
登記請求であれば、「相手の協力なしで登記を行う」ということもあります。


結構多くの人が、勝訴判決をもらった段階で安心して、「もし相手がいうことを聞かなければ裁判所が強制的に何とかしてくれる」と思っているようです。
しかし裁判所はそこまで親切ではありません。

訴訟手続と強制執行手続は、完全に別の手続で、実施機関も異なります(これを「判決機関と執行機関の分離の原則」といいます)。
執行機関が裁判所の場合であっても、判決手続(訴訟手続)とは実施する部門が異なるのです。

そのため、訴訟手続が終わっても自動的に強制執行手続が始まるものではなく、その手続を利用するかどうかは債権者に委ねられています。

当事者(債権者)が訴えを提起しないと訴訟手続が始まらないのと同じで、当事者(債権者)が強制執行したいと思ったら、自分で執行機関に申し立てる必要があります。

債務名義は、この申立ての時に使います(正本を申立書に添付して申し立てるのです)。


では、強制執行手続を行う「執行機関」ってのはどこかというと、執行の内容によって、執行裁判所の場合と執行官の場合があります。

例えば、金銭債権を有していて、債務者の財産(例えば不動産とか銀行口座とか)の差押えをしたいのであれば、地方裁判所に申し立てます。

ちなみに、大阪地裁の執行部門である第14民事部は、西天満にあるメインの庁舎(通常「大阪地裁」といえばここ)ではなくて、新大阪にあります。
大阪で強制執行の申立てをしようと思って、通常の大阪地方裁判所の建物に行っても「新大阪の庁舎に行ってください」と言われますので注意しましょう。


賃料を払わない賃借人をアパートから退去させる「建物明渡執行」とか、債務者の動産(不動産以外の財産)に対する強制執行(動産執行)の場合、執行機関は執行官なので、地方裁判所ではなく執行官に対して申し立てます。

執行官は地方裁判所に所属しているのですが、執行官が詰めている「執行官室」は執行部門とは全く別です。
なので、大阪地裁の執行官室は、第14民事部のある新大阪の庁舎にはありません。

なので、上記の失敗に学んで、「大阪地裁の強制執行手続は新大阪に申し立てるんだ!」と思って新大阪の建物に乗りこんでも、今度は「西天満の庁舎に行ってください」と言われますので注意しましょう。



なお、「少額訴訟に係る債務名義による金銭債権に対する強制執行」については、地方裁判所でなく、簡易裁判所の書記官に対して申し立てることもできます。
これを少額訴訟債権執行といいます。
裁判所と執行官以外が執行機関となる唯一の例外です。


とまあ、色々と書きましたが、とりあえず「強制執行手続は、訴訟手続とは別の執行機関に申し立てないと始まらない」ということを覚えておきましょう。

では、今日はこの辺で。

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